「私は限界を感じたことがないんです」

【田原】13年にGREEに転職する。なぜですか?

【小島】正直に言うと、そのときはまだディレクターになりたい気持ちがあったんです。SCEは人数が多くて、ディレクターは狭き門。いつか順番が回ってくるかもしれないけど、それまで待てないなと。ただ、GREEでディレクターになったものの、自分のやりたい物語はつくれなかった。誰かがつくった枠の中では、自分のやりたいことを100%やるのは無理だと、ようやく気づきました。

【田原】それで起業することになったんですね。FOVEのコンセプトを考えたのは、そのころ?

【小島】いえ、じつはSCEにいたころ、社内コンペでFOVEの原形となる企画を出しました。コンペは勝ったのですが、ビジネスにならないと言われ頓挫。その後SCEを退社してから、友達のオーストラリア人と趣味で細々と試作機を作っていました。最初はお金がないから、発泡スチロールに部品をテープで留めたようなレベル。でも、それを見せたら「おもしろいね」と言ってくれる人が多くて、もうこっちにすべての時間を使おうと14年に起業しました。

【田原】そのオーストラリア人は、いまCTOのロックラン・ウィルソンさん?

【小島】はい、ロキって呼んでます。学生時代に短期でオーストラリアに留学したときに知り合いました。ロキは日本オタクサークルの一員でした。私もオタクなので話が合って、留学中はいろんな試作機を作って遊んでいましたね。ただ、2人とも飽き性で、モノになったものは1つもなかったですね。「僕たちは瓶の中のハエ。いろんなところに行きたがるけど、結局どこにも行けない」と話していたのが印象的でした。

【田原】でも、小島さんは諦めずに試作機を作って起業した。瓶の中のハエじゃなかったわけだ。

【小島】漫画『シャーマンキング』の中に、「誰もが大人になると、頭上にせまっている自分の限界とも言うべき天井に気がつく」という一節があります。でも、私は限界を感じたことがないんです。母から「世界一幸せになれ」と育てられて、小学校4~6年生のときには公文の国語でずっと日本一でした。おかげで自分に疑いがなくて、『シャーマンキング』のセリフを読んだときもピンとこなかった。社会人になってやりたい仕事ができずに鬱屈とした思いを持ついっぽう、それでも自分なら何かできるはずだという凶暴な衝動はつねに抱えていた気がします。

【田原】とはいえ試作機を作るのは大変だったでしょう。お金がかかるし。

【小島】大変でした。ただ、当時はハードウェアスタートアップのムーブメントがあって、クラウドファンディングのキックスターターで約5000万円集めることができました。起業して2カ月後にイメージビデオを発表したら、それも反応がよくて、資金集めに役立ちました。