認知バイアスは「速いこころ」のエラー処理

先ほど挙げたそれぞれの特徴以外でも、「速いこころ」と「遅いこころ」は、多くの点で対照的だ。箇条書きでまとめておこう。

【速いこころ(システム1)】
・無意識的・自動的に働く
・情動的・直感的
・処理能力が速い
・非言語的
・努力・労力が不要
・一般的な知能とは無関係
・進化的に古い
【遅いこころ(システム2)】
・意識的・反省的に働く
・合理的・論理的
・処理能力が遅い
・言語的
・努力・労力が必要
・一般的知能と関係
・進化的に新しい

この連載で繰り返し考えてきたさまざまなバイアスは、「速いこころ」のエラー処理と捉えることができるだろう。だが、「速いこころ」は、動物である私たちが生きるうえでなくてはならないシステムでもある。一事が万事、「遅いこころ」を使って意識的・論理的に物事を判断していたら、食事をすることも服を着ることもままならない。前出の阿部氏は、本の中で次のような例を出している。

<眼の前で火の手が上がった場合、自分や周囲の人の命を最優先に行動しなければなりません。一目散に逃げる人もいれば、大声で助けを呼ぶ人もいるでしょう。こうした場合には、ゆっくりと思考していたのでは、適切な危機回避の行動をとることができません。火の恐怖から逃れるため、システム1が素早く機能することで、わたしたちは生き延びることができるのです>

だが同時に、あまりに「速いこころ」ばかりに頼ってしまうのであれば、それは動物的・本能的に生きることと変わらなくなってしまう。「そだねー」に浮かれるぐらいならかわいいものだが、「遅いこころ」を使わなければ、政治家の「ワンフレーズ・ポリティクス」に熱狂し、ポピュリズムを生み出すことにもなりかねない。