また、グループ外企業との取引を実現するためには、営業活動が不可欠であるが、それは容易でなかった。当然ながら、コンタクト先の企業には、売り込もうとする業務を担当する間接部門が存在しているし、同種業務を行うシェアード・サービス会社を設立していたからである。いくら優れたサービス、安価なサービス提供を訴えても、新規顧客の獲得は困難を極めることになる。

間接業務担当者の中には、かつて、営業の経験がある者がいたとしても、営業の専門職ではない。このような人たちに、他社への営業は荷が重かった。そのため、営業活動は、出身母体であるグループ会社に向けられることになる。そもそも、企業内の間接部門は多くの場合コストセンターであるから、間接業務の価格設定をどのように行い、いくらに価格を決定するかも判断できなかったのである。連結最適ではなく部分最適を求めてしまった結果、シェアードサービスの価格が、外部のサービスより高くなり、かえってコスト高を招くこともあった。

結果は悲惨を極めているにも関わらず、その深刻さが認識されているとはいえない。グループ全体で見れば、シェアード・サービス会社運営のための費用が増大し、連結売上や連結利益へのシェアード・サービス会社の貢献は、微々たるものだからである。また、本体企業から出向・転籍となった人々のモチベーションは低い。

つまり、シェアード・サービス化は、親会社の単体発想に基づいた、合理化や経費節減でしかない。単体レベルに見れば、親会社では間接要員は大幅に縮減され、人件費も大幅に圧縮されている。これは公務員数の削減を迫られた政府が、数多くの独立行政法人や大学法人の設立を通じて、公務員や国立大学の教職員数を減少させた方策と酷似している。

親会社に専門家がいなくなった

加えて、シェアード・サービス化してはいけなかった業務まで子会社に移管したことの代償は大きい。

まず、シェアード・サービス会社に各種間接業務の専門家を移籍させた結果、親会社に当該業務の専門家の層が薄くなってしまった。特に、会計・ファイナンスについて深い知識を持つ者が少ないことは、企業経営に関する判断や意思決定に支障が生じることにつながる。現時点では、問題はないだろうが、あと10年もすれば、会計・ファイナンスに疎い経営陣が、陣頭指揮をとるという極めて危険な事態に直面することになるだろう。

情報システムについても、同様のことが言える。また、人事部から、教育・研修業務を抜き出してシェアード・サービス化した企業も少なくないが、人材育成が企業にとって極めて重要であるという事実からすると納得がいかない。企業における人材育成は、異動、OJT、自己研鑽と並んで教育研修の四つを巧みに組み合わせることで、成果を上げることができるのであるが、教育研修業務を切り離してしまえば、円滑な人材育成に支障が生じるからである。

「経験学習」の研究によれば、「6:3:1の法則」があるという。6割が自分自身の経験、3割が上司・同僚・部下の経験、そして1が研修教育による経験から構成されているという。ただ、それぞれの経験を獲得するために費やされる時間を考えれば、研修教育から得られる時間当たりの知見のウエートは極めて高くなる。このような重要な教育・研修の機能を子会社とはいえ、別会社に委ねることには問題があるだろう。