2011年に社長になると、医薬など「健康」に関する分野への意欲を、一段と鮮明にする。取締役時代に策定した、創立100周年を迎える2015年までの経営計画「DENKA100」を見直して、「2017年までの新成長戦略」を出す。そこで「健康」を有望分野の1つに挙げた。もちろん、他にはないスペシャリティーを持たないと、戦えない。

社長在任5年目、ドイツのライプチヒ郊外にある研究開発型企業のアイコンを買収した。バイオ医薬のベンチャー企業で、植物を使った遺伝子組み換えで目的タンパク質をつくる技術を持つ。ノロウイルスのワクチンや検査試薬に使われる抗体の製造を、開発中だ。

抗体医薬の世界では、イヌの腎臓やブタなどを使って培養する例が多いが、それぞれ動物に由来する弱点もある。植物なら、同じ細胞が分離していく点で、より安全に培養できる、と考えた。世界でも例を聞かないので、買収に踏み切った。先は長く、開花は10年先かもしれないが、楽しみだ。

検査試薬やワクチン事業の強化に設備も拡張した。国内の研究所でも、がんの治療や検査の分野で多様に取り組ませている。四十代後半から描いてきた健康分野への攻めが、時代の新たなニーズに即して「能與世推移」となっていく。

創立100周年の5カ月後、社名をデンカに変えて「化学」の2文字が消えた。でも、カーバイドと石灰窒素の生産で始まる化学企業としての歴史は、大事にする。中核の青海工場の流れ込み式の水力発電では、新しい発電所を建設中だ。ただ、世の中はどんどん変わっていき、会社も積極果敢に変えていかなければいけない。その決意を、社名変更で示した。

デンカは半世紀前から多角化を進め、事業分野がすごく広い。投資家に「広すぎて柱になるものがない」と言われるが、どれかが悪くても好調なものもあり、一斉には倒れないから安定的だ。でも、社員たちがそう考えてしまうと、チャレンジ精神が消える。社長になったころ、それが出ていた。

もっと、社員たちが提起してくるボトムアップの文化を、醸成したい。それを呼び起こそうと、あえてトップダウンで仕かけ続けた。きっと、「能與世推移」のバトンを受け止めてくれたはずだ。

デンカ 会長 吉高紳介(よしたか・しんすけ)
1951年、新潟県生まれ。74年早稲田大学政治経済学部卒業後、電気化学工業(現・デンカ)入社。2001年経営企画室長、06年取締役経営企画室長兼IR・広報室長、10年代表取締役兼常務執行役員、11年社長。17年4月より現職。