若者が右傾化したから安倍政権は選挙で勝った?
“疑惑”は問題の発端にはなっても、攻撃や断罪の理由にはならない。一方で“思惑”は、たどり着こうとしている結論や目的がはっきりしている。強い“思惑”に支配された議論は、「~べきだ」という言葉で締めくくられる。そういう話を筆者は「べきだ論」と呼んで、なるべくかかわらないようにしてきた。
筆者は元数学者だから、数字による客観的な裏づけがない話は鵜呑みにしないようにしている。しかしここ数年、「べきだ論」で展開する「おかしな議論」が、あまりにも増えた。「フェイクニュース」という言葉を頻繁に耳にするようになったという実感は、一般の人にもあるだろう。
さすがに「物言い」の手をあげておかねばならない、という問題意識から、拙著『なぜこの国ではおかしな議論がまかり通るのか』(KADOKAWA)という新刊を上梓したのである。
この国の「おかしな議論」を助長する人たち
無知や不勉強や悪意で「おかしな議論」をしている論者のなかには、学界や業界内で権威とされ、社会に対して影響力を及ぼしている人も多い。筆者の得意分野でもあるマクロ経済分析に関しても、間違った分析と当たらない予測ばかりを繰り返している御用学者やエコノミストが山ほどいる。間違っても謝らない専門家たちと、彼らを都合よく使い続けるマスコミが、この国の「おかしな議論」を助長している。
しかし経済政策にしても、内政・外交にしても、「おかしな議論」に振り回され、時間を浪費しているうちに、ほんとうに行うべき真の議論が後回しにされている。北朝鮮問題などの国際情勢一つとっても、目まぐるしく状況が変わるなかで、「おかしな議論」に足をすくわれていては、間違いなく日本の国力は弱退化してしまう。
筆者は海外のメディアも日常的にチェックしているが、日本が抱える問題について、日本のマスコミ以上に的確な論考が報じられるケースも少なくない。たとえば、昨年10月の衆議院選挙で安倍政権が勝利した理由にしても、マクロ経済理論の裏づけを知っている欧米メディアは「金融緩和が継続された結果である」と正しく分析していた。一方、日本では「若者が右傾化した結果」と論じた新聞まであった。見識を疑わざるをえない。拙著でも分析しているように、内閣府の「外交に関する世論調査」を“思惑”なしにきちんと分析すれば、「若い世代は右傾化していないが、自民党支持が強い」という結論を、きちんと導くことができる。
フェイクを見破るのは、決して難しいことではない。正しい前提から始めれば、誰でも「おかしな議論」を排除し、正しい未来を見通すことができるはずである。
政策工房会長、嘉悦大学教授
1955年東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。80年大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008年『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞を受賞。