チャンスがあればひるまず飛び込む。自身のモットーであり、後輩にも伝えていることだ。セールスレディー第1号、女性初の宿泊部長など、与えられたチャンスはすべてつかんできた。最大のチャレンジは、子どもが幼いころの海外への単身赴任だった――。

ロイヤルホテル初の女性セールス

関西で生まれ育った中川さんの子ども時代、大阪のロイヤルホテルは特別な場所だった。

ロイヤルホテル執行役員 中川智子さん

「お祝い事があったとき両親と食事をするのはこのホテルでした」

憧れのホテルに入社し、フロント係を経て、1年半後に「当時、日本のホテルではまれだった」コンシェルジュとなる。

そのころ、繊維の街、大阪には海外から来るバイヤーが多く、毎年ロイヤルホテルに泊まる人たちがいた。観光案内はもちろん、ビジネスのアポイントを取ったり、「お土産を持ってきたからラッピングしてほしい」という要望を聞いたり、こまやかに対応した。

「コンシェルジュの仕事は本当に楽しくて、お給料をいただいて毎日学ばせてもらっていいのかなと思うほど(笑)」

生涯の仕事にしても構わないとほれ込んだ。ところが1年半後、セールスに異動。コンシェルジュを離れる寂しさを募らせていると、常連のお客さんから「コングラチュレーション!」と握手された。「トモコ、これはグッドチャンスだよ。そんな顔をしないで頑張りなさい」と。その言葉に背中を押された。

ロイヤルホテル初の女性セールスとして、付き合いのある外資系企業の担当となった。気づいたのが看板の威力だ。

「私はまだ25、26歳の駆け出しなのに、『ロイヤルホテルのセールス担当です』と訪問すると、支店長クラスの方が応対してくれて、これは失敗することはできないなと身が引き締まりました」