仲介役の文在寅に対するアメリカの不信感

そもそも、米朝の仲介役を買って出たのは韓国です。アメリカが外交ルートを通じて直接北朝鮮と対話したわけではありません。金委員長から正式の親書を受け取ったわけでもありません。すべて韓国の鄭義溶・大統領府国家安全保障室長が、平壌とワシントンを往復して両者の間を取り持ったにすぎません。

アメリカ内には、もともとこの話をマユツバ視する向きが少なくありません。韓国による「空騒ぎ」と見ているのです。平昌冬季五輪に便乗した北朝鮮の「微笑外交」を、アメリカは最初から冷ややかに見てきました。その理由は三つあります。

第一にトランプ大統領は元々、文在寅・韓国大統領とその政権を信用していません。米韓の懸案である高高度ミサイル防衛システム(THAAD)配備では、文在寅政権は中国の警告を受けて右往左往するなど、米中との「等間隔外交」に終始しました。そんな文在寅のことを、トランプ政権は「韓国史上、最も親北朝鮮的、反米的な大統領」と見ています。その人物が敵国・北朝鮮とアメリカとの仲介役をやっているんですから、トランプ政権側も100%信用しているわけではありません。(*注1)

第二に、金委員長からの伝言は、韓国の特使が口頭で告げられたもので、正式に文書にされたものでもありません。対北朝鮮強硬派の専門家も、その点をしきりに指摘しています。

第三に、韓国が仲介役になっているために、金委員長が言っているとされる「非核化」が、核とミサイル開発の一時的停止なのか、あるいは完全放棄を意味するのかが、はっきりしていない点です。

いずれにせよトランプに「妥協・譲歩」はない

一方、トランプ大統領のスタンスは単純明快です。北朝鮮が核・ミサイル実験を完全に放棄しない限り、米朝首脳会談などしないという強い決意です。そこに妥協や譲歩はないのです。

アメリカはこれまで、国連を使って対北朝鮮経済制裁措置を科す一方で、軍事的圧力を最大限まで高めてきました。その結果、北朝鮮は今やにっちもさっちもいかず、金体制は崩壊の危機に瀕している、というのがトランプ大統領の見立てです。