「給与で日系企業が優位性を持つ国はどこにもない」

マレーシアでは、日系企業の「経理課長」は260万~370万円に対し、現地企業は256万~356万円とほぼ拮抗している。

ところがインドネシアになると日系企業は125万~196万円だが、現地企業は203万~384万円、部長は日系企業が204万~266万円、現地企業が360万~563万円。完全に水を空けられている。

調査を担当したJACリクルートメントの黒澤敏浩フェローは「給与で日系企業が優位性を持っている国はどこにもない」と指摘する。

「日系企業は早い時期からアジアに進出していますが、その後に欧米系外資が進出し、日系より高い給与で人材を引き抜かれるケースが増えた。その後、現地企業の業績拡大に伴い給与水準が上がり、日系企業から現地企業に人が流れるケースも増えており、給与を上げないと人材を確保できない状況になりつつあります」

▼「金融業の営業職の給与」日本は中国に惨敗
写真=iStock.com/maogg

人材確保の厳しさは巨大市場の中国で特に顕著だ。

「欧米系外資よりも給与水準が高い現地企業も少なくありません。中国人の人気が一番高いのは現地の元国営企業、次に欧米系外資、最後が日系企業の順になっています。残念なことにこの10年の間に日系企業の給与は低いというのが労働市場に定着してしまっている。近年、欧米企業は中国に積極的に投資しており、日系企業の人材確保はますます難しくなっているのが実情です」(JACの黒澤氏)

今度は「金融業の営業職」の給料を比較してみよう。

中国の金融業界の営業職の場合、日系企業の課長級の年収は390万~796万円。それに対して現地企業は474万~948万円であり、日系企業を上回る。

営業職の部長級は日系企業1051万~2118万円、現地企業は1271万~2542万円。日系企業も決して低いわけではないが、それを上回る年収を得ている。

次に、1人当たりの名目GDPが日本の1.4倍と経済的には先進国に入るシンガポールになると、格差はもっと大きくなる。日系企業の課長が488万~813万円であるのに対し、現地企業は853万~2438万円。

部長になると日系企業が650万~1219万円、現地企業は1544万~2844万円になる。日本企業の上限年収よりも現地企業の下限年収が上回っている。

シンガポールの給与水準は幅が大きいが、月額30万~60万円が最も多い層といわれる。2017年度の国立大学卒の理系の初任給は約33万円を超える求人もあり、文系も約25万円と日本の新卒初任給よりも高い。これでは現地の人が日本企業に入りたくないと思うのは当然かもしれない。