荒木さんも、入社後すぐ浜松工場に配属され、新幹線車両の整備・メンテナンスを担った。「実際にお金を払って乗る新幹線に、自分の触った車両が使われていることを肌で感じた」と振り返る。

「たとえば、大阪の実家へ帰郷するとき、テーブルや座席を見ると、『あ、ここは私が直した場所だ』とすぐにわかります。工場には女性社員がほとんどいなかったので、最初は不安もありました。でも、そのとき職人肌のベテランの方たちに仕事を教わったことは、大きな経験になりました」

安全を保持する意識を、たたき込まれた

車両工場の整備担当者は、すべての工具を輪郭線上に置く「姿置き」で管理する。1つでもなくなれば車両は工場を出られず、見つかるまで探し出すことになる。

(上)体験乗車の案内業務は、「期待されている」と実感できる貴重な機会だ。(下)JR東海には1人で仕事に没頭するより、チームワークを重視する社員が多い。会議では活発に意見が交わされる。

リニア車両の整備では、工具類の管理はさらに厳重だ。強力な磁力で工具が超電導磁石についてしまい、そのまま走行すれば大事故につながる危険性があるからだ。

「この会社の根底にある、安全に対する意識と技術者に必要な姿勢を、最初の1、2年で徹底的に学びました。営業線車両を扱う仕事とはこういうことだ、と」

浜松工場で1年を過ごした後は、山梨の新しい実験線で始まる試験運用の事前準備にかかわった。以来、超電導磁石の開発エンジニアの1人として、すでに5年以上をリニアモーターカーの仕事に費やしてきたことになる。

「開発では1人で悩みすぎないことが大事だと思ってきました。だから、わからないことがあれば、すぐチームの仲間に聞く。でも、そのときはきちんと自分の意見を用意して、考えを述べてから相談するように気をつけてきました」