なぜ送電線の「空き容量」が問題になったのか

2012年のFIT(※1)開始以降、太陽光発電や風力発電といった、発電量の調整が難しい再生可能エネルギーの電力ネットワークへの接続が大幅に増加している。以前から開発が進んできた水力を除く再生可能エネルギーの全体の発電量に占める割合は、2011年度の2.7%から2016年度は7.8%へと約3倍に増加した。

こうした中、各地域の電力会社は国の認可法人である電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)(※2)が定めるルールに基づき運用しているという。その基本的な考え方が、公平性・透明性の観点から、発電の方法に関係なく、全電源共通で申し込み順に電力ネットワークに接続するという、「先着優先」ルールだ。

また、送電線は、「1回線が故障した場合であっても安全に送電できる状態を維持する」という考え方で運用容量を決めており、緊急時用の容量を確保するという原則の下で運用されている。

こうした中で、「送電線を所有する大手電力会社が、空き容量がないという理由から、再生可能エネルギーの接続を拒否している」という批判が一部で出てきているが、これはどうしてか。

金子氏は「送電線の建設には莫大な費用と時間がかかる。多くの場合、送電線は2回線で運用しており、もし1回線が故障しても、残る1回線に電気を流してカバーできるよう対応している。空き容量をどのぐらいにするかはリスクの負い方にほかならない。リスクを高く取れば、空きを少なくして使うことも可能ではあるが、短時間の停電すら許さないというなら半分空けておき、緊急時の対応をしておくべきだ」と指摘する。

このように万一の故障に備えて、送電線の容量を1回線分空けておく運用は、日本だけでなく欧米など国際的にも広く採用されてきた。

エネルギー行政に詳しい社会保障経済研究所の石川和男代表も「送電線の空き容量は、落雷など緊急時であっても電気を安定して送るために必要となる。日本は電化が進んでいるので、容量が不足して停電が起きれば、命にかかわる問題となってしまう。しっかりとルールにのっとって運用している大手電力を、新規事業者が批判するというのは筋違いだ」と指摘する。

さらに、日本では、需要が少なく、もともと送電容量の規模が小さい送電線がある地域などに、風況の良いエリアや日照量の多いエリアが偏在している。そうした地域に再生可能エネルギーの申し込みが集中することにより、送電線の容量が不足するといった課題も出てきているのだ。

※1:FIT(固定価格買取制度)……再生可能エネルギーの導入拡大を図ることを目的に、国が定めた仕組み。この制度により電力会社は再生可能エネルギーで発電された電気を、割高な価格で一定期間買い取ることが義務づけられている。
※2:電力広域的運営推進機関……電源の広域的な活用に必要な送配電網の整備を進めるとともに、全国で平常時・緊急時の需給調整機能を強化することを目的として、2015年4月に電気事業法に基づき国が認可し設立された機関。