過労死やうつ病などの原因にもなる「長時間労働」。日本社会に深く根付く「残業当たり前」の風土を変えるにはどうすればいいのか。日本総研のアナリストは「残業削減のインセンティブ(誘因)をつくらなければいけない」という。その具体的な方法とは――。

「残業当たり前」の風土が変わらないのは誰のせいか?

日本社会が断ち切りたいのに、いつまでたっても断ち切れない。その筆頭が「長時間労働の慣行」ではないでしょうか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/xijian)

2018年3月1日、安倍晋三首相は、この長時間労働の慣行を断ち切るために、「時間外労働の罰則付きの上限規制を行う」と述べました。

意外に思うかもしれませんが、「労働者全体」の1人当たりの年間総実労働時間は年々減少をしています。その大きな理由は、「パートタイム労働者」の割合が近年増加傾向にあることです。

その一方、フルタイムで働くビジネスパーソンなど「一般労働者(常用労働者のうち、パートタイム労働者以外の労働者)」の総実労働時間は2000時間前後で高止まりしたままです(厚生労働省「平成28年版過労死等防止対策白書」、同「毎月勤労統計調査」による)。

「一般労働者」の長時間労働はいまだに改善されない課題のひとつです。本稿では、さまざまなデータから長時間労働を削減する方法について考察します。

▼ダラダラ会議、上司の居残り、助け合い風土の欠如……
【1:長時間労働をもたらす職場慣行の主な原因は業務の属人化と時間管理意識の低さ】

日本経済団体連合会の「2017年労働時間等実態調査(※)」(以下、「経団連調査」)によると、長時間労働につながりやすい職場慣行として以下の3つがあげられていました。
※調査対象は経団連会員企業ほか249社の110万4389人。

「業務の属人化」(27.3%)
「時間管理意識の低さ」(21.7%)
「業務効率の悪さ」(18.3%)

仕事内容がマニュアル化されておらず、担当の人(あるいは自分自身)しかその仕事のやり方がわからず、仕事が終わるまで帰れないというシーンは、多くの職場で見受けられます。さらに、定時時間内で仕事を終わらせようという意識や、効率的に仕事をしようという意識の低さも問題です。

筆者が往訪した企業でも、以下のような声がありました。

「一部の人材に仕事が集中してしまっているにもかかわらず、助け合う風土がない」
「長時間で非効率な社内会議や、社内の手続き書類が多い」
「直属の上司の長時間労働の影響で部下が定時に帰れない」

「社内で助け合う風土がない」は「業務の属人化」の典型的な例です。一般的に、ある社員が担当している仕事(あるいば所属している部署)にマニュアルのようなものが存在しない場合、他の社員がサポートすることができません。「社内で助け合う風土がない」と結果的に社員一人当たりの長時間労働などが改善されにくくなります。