なぜ育児にかかわる男性社員が多いのか

転勤には家族が大きな課題となる。大阪支店 医薬一課の許斐(このみ)雄一郎さんの場合、17年の夏、単身で東京から大阪に異動した。

大阪支店医薬一課 許斐(このみ)雄一郎さん

許斐さんはゼネコンの現場監督を経て、04年に大塚製薬に転職してきた。MR(医薬情報担当者)として埼玉と東京の支店・出張所で、大学病院をメインに営業を続けてきた。2人の娘が小さいときは、優先順位を決めて効率よく仕事を進め、本人としては「育児にも積極的にかかわった」。

「子どもが生まれたばかりのころは夜、ミルクを作って飲ませましたし、土日はよく遊びましたね」

かつてのMRといえば病院に張り付き、医師が診察や手術をすべて終えた後の営業が当たり前。飲むのが好きな医師とは仕事後も付き合うから、朝から晩までの長時間労働になりがちだった。しかし今はそのスタイルはかなり変わっているという。

「お医者さんと付き合う時間よりも、提供できる情報の価値が営業成績につながることが多くなりました。病院側でMRが来院していい時間に制限を設けるようになった影響もあります」

大塚製薬は会員制サイトなどで価値のある情報を届けている。たとえば学会の講義を閲覧できるのは好評だという。また、許斐さん個人は、医師の研究のヒントとなる情報を提供し、関係づくりに努めている。

大阪転勤は課長昇進を伴う異動で、もちろん喜んで受け入れた。ただ子どもたちに会えないのがちょっとだけ寂しい。平日はLINEで連絡を取り合い、週末は東京に帰る生活だ。

「まだ子どもが小学生だから一緒に暮らしたいと思っています。とりあえず1人で来ましたが、赴任から2年以内なら引っ越しや家族向け住宅の補助が出るので、じっくり検討します」

補助が出る期間に猶予があるので、先に許斐さんが大阪に来て、慣れたころに家族を呼び寄せることが可能だ。今は12人のチームで「熱く仕事をやろう」と元気に引っ張る一方、「有休はしっかり取ってください」と子煩悩のリーダーらしく、部下たちのワーク・ライフ・バランスにも配慮を見せる。

▼自分たちが変わり、周りに伝える

許斐さんの部下にも3人の女性MRがいるように、最近は女性MRが多くなってきた。しかし田中さんが90年に入社しMRになったときは、まだ珍しい存在だった。それが、人事部に移るまでの7年半でずいぶん変わったという。

「MRの世界は女性が入ってきたから変わった部分も大きいと思います。昔はお医者さんとの面談の約束をメールで取るなど考えられませんでした。今は当たり前ですから」(田中さん)

田中さんは今、ダイバーシティ推進プロジェクトのリーダーも兼務し、柿崎さんともう1人の3人で担当している。同プロジェクトは07年に発足。誰もが長く働くためのモチベーションの向上と、制度・環境の整備の両面から施策を進めた。