「もう少し子供を中心にした社会になってもいい」

【吉田】もちろんオランダは学校によって方針がいろいろなので、すべての学校がそうだとは言えないのですが、長男が通っている学校や、あるいは友人・知人から話を聞く限り、オランダの学校の先生たちは、とにかく「生徒が楽しい」ということを重視しています。これはもう本当にはっきりしています。

一般財団法人1more Baby応援団『18時に帰る-「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方』(プレジデント社)

特にオランダの場合、学校の運営は別の機関(学校運営会社)が担っているんですね。ですので、先生は事務的な作業をする必要がないんです。だから常に生徒たちに向き合うことができる。ここは大きな特徴だと思いますし、良いところだと僕は感じています。

【秋山】最近よく日本でも言われていることですよね。日本の先生はやることが多すぎる、と。そこはオランダを見習って、特に事務的なところでの負担を減らしてあげられたら、よりよい教育につながるのかもしれません。

最後の質問をさせてください。これは、『18時に帰る』を書くきっかけになったことですが、オランダはユニセフ・イノチェンティ研究所によって「世界一子供が幸せ」だとされた国です。実際に住んでみて、それを肌で感じることはありますか?

【吉田】すごく感じますね。先ほどから話している教育もそうですけど、オランダではあらゆる面で、子どもが社会の真ん中にいるということを実感します。物理的に公園が多いとか、子どもNGなお店が少ない、というかほぼないこととか、子どもがスーパーマーケットで騒いでいても、だれも嫌がらないこととか。注意をしないということではなく、嫌がっている雰囲気は微塵も感じません。

【秋山】公園は日本だといろいろなルールがありますよね。「ボール遊び禁止」とか「大きな声で騒がない」とか。

【吉田】はい。オランダではあり得ないことです。で、何が言いたいかというと、それらは結果的に子育てをしやすい環境になっているということ。たとえばベビーカーを電車に乗せるかどうかが、日本では議題にあがったりしますけど、そんな問題は絶対に起きない。乗せてOKがあたりまえだし、みんなが乗せるのを手伝ってくれる。それが普通の光景。それ以上でもそれ以下でもない。

そして、子育てがしやすいというのは、「結果的に親が幸せ」ってところにつながっている。やっぱり親が幸せな国は、子供も幸せですよね。

今、オランダに住んでいて、そこから日本を見ていると、やっぱりきちっとしすぎているなと感じることが多々あります。もちろんそれが日本の良さでもあったりするので、一概に否定するわけではないのですが、やっぱりもう少し子供を中心にした社会でもいいと思うんです。それは仕事にしてもそうですし、子育てや家事にしてもそうです。

【秋山】おっしゃる通り、親が仕事や子育てでストレスを強く感じて笑顔になれなくなると、必然と子供も笑顔じゃなくなりますよね。そうするとさらに子育てが辛くなる。そういう負の連鎖に入りがちです。子育てもそれぞれで、絶対という正解もありませんよね。日本全体が子育てや働き方など、多様性を受け入れられる柔軟な社会になる必要があると考えています。

【吉田】そうですね。僕としては、オランダの教育や子育て環境が、その参考例のひとつとなればいいなと思っています。

公益財団法人1more Baby応援団
理想の数だけ子どもを産める社会を実現するため、結婚・妊娠・出産・子育て支援に関するさまざまなシンポジウムや調査活動、情報提供を行っている。編著書に『こども大国ニッポンのつくりかた』(木楽舎)、『なぜ、あの家族は二人目の壁を乗り越えられたのか?』(プレジデント社)がある。http://www.1morebaby.jp/
秋山開
公益財団法人1more Baby応援団専務理事。二男の父。日本の少子化問題の解消に向け、子育て環境や働き方等について調査、啓蒙活動を推進。執筆、セミナー等を積極的に行う。近著の『18時に帰る-世界一「子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方』(プレジデント社)は、第6回オフィス関連書籍審査で優秀賞に選ばれている。
吉田和充
東京都出身、オランダ在住のクリエイティブ・ディレクター/ブランディング・デザイナー/保育士。経営戦略、広報広告戦略の立案・実施、プロデュース、商品開発、新規事業立ち上げ、海外進出プロデュースなどに携わっている。http://otoyon.com/
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