さらに、親自身の最終学歴によって、子どもに求める就職先企業に違いが生じることもわかった。もっとも大きな違いは、東一早慶など偏差値64以上の大学卒の親(A層)はトヨタ自動車への就職をそれほど望んでいないということだ。A層では、電通、花王、資生堂、ベネッセコーポレーション、三菱商事などを希望する声が強い。これらの企業を志向する理由は「将来の可能性がある」「女性重視の社風」という企業の将来性や社風を意識した回答が寄せられている。仕事の意義や職場の環境を重視したコメントが並ぶ。

わが子を入れたい会社
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わが子を入れたい会社

次に、MARCHなど偏差値64未満~55以上の大学卒の親(B層)の希望先は、グーグル、マッキンゼーなどの外資系企業が上位に食い込んでいることが特徴だ。理由としては「自由な社風で個性が活かせること」や「世界的な実績があり、将来的な転職に活かせること」が挙げられており、わが子の能力に自信を持っていることが窺える。また、B層がわが子に望む年収や出世の水準は他の層と比較してみても群を抜いて厳しい。わが子に望む年収が「1000万~1500万円未満」「1500万~2000万円未満」「2000万円以上」の高所得を志向する比率が、A層や大東亜帝国など偏差値55未満の大学卒の親(C層)と比較しても高い。わが子に望む出世のゴールも「社長になってほしい」という回答が断トツで多い。これらのデータにB層の親の「わが子に立派になってほしい」「わが子に金持ちになってほしい」という思いや激しい上昇志向が露骨に表れている。B層の家庭に生まれた子どもたちは強烈な親からのプレッシャーに四苦八苦、過大な要求への対処に頭を悩ますことになるかもしれない。

C層の親のわが子の就職希望先には、シャープ、サントリー、カゴメなどが上位にランクイン。理由として「製品を愛用している」や「何となく」など、身近な生活からの発想による理由が多い。C層の傾向として、わが子に望む年収が1000万円未満の割合が最も多く、「自活できればよい」や「選べるほど優秀ではない」など、自分自身の理想を押し付けるのではなく子どもの自由意思に任せるという謙虚な姿勢が表れている。

一方、リクルートが実施した「大学生の就職志望企業ランキング」と比較した場合、現役学生の就職希望先として、親の世代がわが子を入れたいと願っている上位企業は、トヨタ自動車82位、パナソニック28位、関西電力46位、ソニー77位など、バッサリ否定されている。現役学生が望む就職ランキング1位はJTB、2位は東海旅客鉄道、3位は東日本旅客鉄道、4位は日本郵政、5位は全日本空輸など、社会インフラ系の企業が勢ぞろい、安定最重視の保守的傾向を示している。現在、就職難の中で狭き門をめぐって戦いを繰り広げている現役学生の企業を選別する視線は親の世代よりもさらにシビアだ。子どもたちは景気のよし悪しや企業の都合で採用数が左右される現実に振り回され、就職後の安定した生活を志向し、親から求められる就職希望先に冷ややかな視線を送っている。

冒頭のS君は「大手企業を何十社も落ちて最初のうちは後輩に飲み会で愚痴をこぼしていましたが、もう就職活動は諦めて資格でも取って堅実に生きていく道も考えていこうかと思います」と語る。

(「 」内コメントは特記がない限り、アンケートの自由回答から引用)
【調査概要】調査協力:マクロミル 全国の40~50代の有職者で、15歳以上の子どもがいる男女1000人対象。調査期間は2010年9月2日~3日。