「自分が死んだら悲しむ人」の顔が浮かぶか

ただし、日本は長寿国で、近年は他者とのつながりも薄くなり、死と直面する機会は減っています。死を考える機会がないまま、人間関係が希薄な状況下で、備えもないまま大きな恐れに襲われる。すると、虚ろな自己のまま、「自殺」という選択肢を選んでしまう。先進諸国の中で、日本で若い世代の自殺が多いのは、このような背景があると考えられます。

先ほども述べましたが、死の恐れを乗り越えるためには、利他性、つまり「他の人のために生きている」、言い換えれば、他者に支えられて生きているという気持ちが欠かせません。安心して生きるためには、いろいろな他人、共同体と関わること。職場だけではなく、友人、地域や趣味のつながりを持ち、「自分が死んだら悲しむ人」の顔が浮かぶような状況にすることです。

つながりが長期的な備えになる一方で、日々の日常的な楽しみを増やすことも大切です。体を動かすことがポジティブな気持ちを高めることは知られています。ほかにも、例えばお笑い番組を見ることでも何でもいいのです。楽しさを追いかけることは、どんなことでも視野を広げてくれますし、一時的でもポジティブな感情を重ねていくことで、死の恐れを乗り越え、人生を豊かにすることができるのです。

島井哲志(しまい・さとし)
医学博士、指導健康心理士
関西福祉科学大学心理科学科教授。著書に『ポジティブ心理学を味わう』など。
(構成=伊藤達也 写真=iStock.com)
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