日本メーカーの生き残る道

以上のことを総合し、自動車業界で起きている構造変化をわかりやすい図に起こすと、自動車会社とエンドユーザーの間にもう1つ、オンデマンド・プラットフォームが入った形になる(図表3)。ここでは、グーグルやアップル、テンセントなど異業種のプレイヤーも、デジタル・インテグレーターの座を狙って続々と参入してきている。オンデマンド・プラットフォームに対するサプライヤーの影響力は増す一方で、自動車会社は顧客との接点を失いかねない状況に置かれている。

このような状況下で日本の自動車会社が生き延びるには、根本的な発想の転換が必要になる。日本の自動車会社はこれまで、自動車の技術や作り方において数多くの革新を生み出し、それらを世界に「輸出」してきた。しかしながら、グローバル化した自動車産業界において、企業の国籍は意味を持たなくなってきている。各企業が世界の各市場のローカルなニーズに対して、どのような戦略を持ち、実行していくかが重要になっている。

昨今起きているのは、自動車の「作り方」ではなく、「使い方(サービスモデル)」に関する革新だ。イノベーションの意味が大きく変わったのだ。日本の自動車産業が米欧中に比べて遅れているのも、ここである。世界で3番目の市場国として、サービス分野でどのような革新を生み出せるか、が今後の重要な鍵を握る。

例えば、都市モビリティーの変化は、人々の暮らしや働き方にも影響を与える。そういう意味では、メーカーや国という単位ではなく、各自治体レベルでも、この問題に真剣に取り組むべきタイミングが来ている。BCGは世界経済フォーラム(WEF)と共同で、自動運転に関するボストンでの実証実験を実施しているが、この実証実験に手を挙げた理由について、ボストン市長がこんなことを言っていた。

自宅から駅やバス停が遠く、公共交通機関を利用することができない状況にあるボストン市民は依然として存在する。そこに自動運転を使った新しい公共のモビリティーサービスを提供することは、住民の生活環境を向上さる有効な手段となるだろう、と。

日本ではまだ、このような発想でモビリティー戦略に取り組んでいる自治体は少ない。もちろん、東京などの都市部と地方にあるモビリティーの課題は、性質がまったく異なっている。日本の自動車会社が世界の動きに遅れないためには、国が動き出すのを待つのではなく、より素早い動きができる自治体と組んで行動を起こすことも必要だ。

古宮 聡(こみや・さとし)
ボストン コンサルティング グループ(BCG) シニア・パートナー&マネージング・ディレクター
BCG産業財・自動車グループ アジア・パシフィック地区リーダー、BCG自動車セクター アジア・パシフィック地区リーダー兼日本リーダー。自動車メーカー、自動車部品メーカーなどを含む産業財企業に対して、事業戦略、グローバル戦略の策定・実行支援、デジタル・トランスフォーメーション、オペレーション改革、コスト削減、収益力強化、営業改革などのプロジェクトを手掛けている。【BCG自動車セクターサイト】https://www.bcg.com/ja-jp/industries/automotive/default.aspx
富永 和利(とみなが・かずとし)

ボストン コンサルティング グループ(BCG) パートナー&マネージング・ディレクター

BCG産業財・自動車グループのコアメンバー。産業財、自動車をはじめとする製造業企業を中心に、企業変革・PMI、グローバル市場戦略、デジタル新規事業、イノベーション戦略の策定・実行支援、技術ロードマップ策定などのプロジェクトを手掛けている。特に自動車業界、製造業のグローバルアジェンダのコンサルティングの経験が豊富。トヨタ自動車株式会社、ブーズ・アンド・カンパニーなどを経て現在に至る。
(構成=曲沼みえ)
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