しかし、それにもかかわらず、アメリカはその危機がさらに進展することを本格的に防ごうとはしませんでした。その一方では自国防衛の危機、つまり、北朝鮮がレッドラインを越えることを、これ以上ない威嚇的圧力をはじめとするあらゆる手を尽くして、なんとしても防ごうとしてきたのです。

トランプ米大統領が、自国の国益にならないかぎり、諸国の軍事的な安全を保障する「保険国家」の役割をもうアメリカは続けない、という方針であることは、明らかであると思います。

米朝会談で何が話し合われるにしても、そこでは北朝鮮が核放棄をすることも、アメリカが北朝鮮の核を容認することもないでしょう。北朝鮮の核放棄がないかぎり、国連制裁はどこまでも続きます。とすれば、北朝鮮はどこかで音を上げて核放棄をするのか、あるいは打って出るのか。さらにはアメリカが北朝鮮への攻撃を敢行するのか、偶発的な衝突から本格的な戦争へと拡大していくことがあるのか……。

現在のところ、いずれの可能性も排除できません。しかし、今回の米朝会談の決定で、いずれにもならない可能性が最も大きくなったと私は思います。核放棄をするかしないか、戦争になるかならないかではなく、北朝鮮が核放棄をせず、米朝戦争にもならない可能性が極めて大きくなった、ということです。

「どちらにもならない」状態が続くとすれば、これからどんなことが起こると考えられるでしょうか。この部分こそ、今後の北朝鮮の核問題で最も重要なところであり、拙著『韓国と北朝鮮は何を狙っているのか』(KADOKAWA)の核心のテーマであります。

アメリカも韓国も在韓米軍の撤退を望んでいる

韓国の文在寅大統領はいま、国連の制裁方針に従う一方で、自国のミサイル防衛体制の強化にやっきになって励んでいます。それは、「韓国が自主防衛能力をもつことを条件に、現在、米軍が保持している軍事指揮権(戦時作戦統制権)を2020年代半ばまでに韓国に返還する」という、米韓の取り決めがあるからです。

軍事指揮権返還の時点で、米韓連合軍については解体することが合意されています。そうなれば、在韓米軍の撤退は時間の問題となり、国連軍も解散することで、韓国は晴れて北朝鮮と平和協定を結ぶことができます。文大統領の悲願である南北統一が、一気に現実性を帯びてくるのです。

この事態こそ、北朝鮮の核放棄も、米朝戦争も起きないとした場合、近未来に起こりうる現実にほかなりません。文大統領の狙いはまさにそこにあるわけですが、実は韓国だけではなくアメリカもかなり以前から、こうしたかたちを最終的な解決案として、朝鮮半島の戦略を展開してきたのです。