必要なのは経営者側の意識改革

残業手当を支払いたくないから社員を管理職と呼んだり、裁量労働制を採用しようとしたりする一部の経営者、そのくせ会社の利益のためだけに社員を使い倒そうとする経営者は、その考えを今すぐ改めなければならない。

それに今後は、そんな経営者のもとで働きたいと願う人材はますます減り、働き手としても消費者としても会社に寄り付かなくなるだろう。それほど経営者の真の意図は簡単に見ぬかれ、インターネットですぐに拡散してしまう時代なのである。

「名ばかり管理職」の問題を解決しないまま、現状の理解のまま裁量労働制を導入しようなどというのは、はっきりといって経営者側の身勝手で無謀な振る舞いだ。国が言っている理屈も――それもデータに根拠がないこと明らかになったが――現状への理解が著しく欠けている。「働かせる側」の意識改革、経営の刷新こそがまず必要なのだ。そこを乗り越えて初めて、裁量労働制を、われわれの社会は扱えるようになるのだろう。

裁量労働制がメリットを与える5条件

では、法的な要件を満たしたうえで、使用者と労働者双方にとって裁量労働制が確かなメリットを提供するためには、どのような心構えやルールが必要だろうか。

筆者はこの5つを提言する。

(1)使用者は労働者を尊敬し、信頼するという前提に立つマネジメントをしている。
(2)使用者と労働者の間で、あらかじめ求める労働(役割)とその成果が定められている。
(3)使用者の側に「仕事の与え方」に関するルールや規制があり、遵守されている。
(4)労働者は労働の「成果」を実現するために必要な能力や経験をおおむね備えている。
(5)使用者は労働者が「成果」を実現するために必要とするサポートを行っている。

裁量労働制は、「性悪説」を前提としては成り立たない。労働者は使用者が目を光らせていないと仕事をサボるはずだ、手を抜くはずだ、だから常にそばで監視していなければならない――こんな性悪説の見地では、使用者は労働者に“裁量”を委ねることはできないのだ。

経営者が単に心を入れ替えるだけではダメで、全社的にこの前提を共有・徹底しておかなければ、職場はハラスメントの温床となる。