例えば、会社の使用者と労働者が1日のみなし労働時間を8時間と設定した場合、たとえ半分の4時間しか働かなかったとしても8時間働いたとみなし、給料の減額などをしないことになる。逆に8時間以上働いたとしても8時間を超える労働時間分の残業代も支払わないということである。

しかしながら、このような働き方であっても、みなし労働時間8時間を超えて設定した場合は超える時間分の残業代、22時から5時までの深夜勤務や法定休日勤務にかかる割増賃金は支払われなければならない。

会社が勝手に決めて導入することはできない

なお、裁量労働制は決められた業務にしか適用されない。

当該業務は「専門業務型」と「企画業務型」に分かれ、「専門業務型」は厚生労働省令で定めるか厚生労働大臣が指定する全19種類の業務以外は適用の対象にならない。

また「企画業務型」(今回、拡大の対象となった業務)にも裁量労働の適用対象とするためにはさまざまな要件を満たす必要があり、何より「企画専門型」は「専門業務型」と異なり、本人の同意も必要になるのである。

要は、どちらも会社が勝手に決めて導入することはできないのだ。

例えば「コンピューター会社『エーディーディー事件』(京都)」の裁判では、SEに本来業務のほか、プログラミングや営業活動をさせていたことで裁量労働制の違法が認められ、会社側に1140万円の支払いが命じられた。このように、裁量労働制の導入要件を満たしていない、逸脱している働かせ方などは問題外だ。このような事件になるものは異例かもしれない。しかし、裁量労働制の適正な運用を妨げ得る要因を、多くの「普通の」企業が抱えている現実がある。

人事コンサルタントとして気になるのが、管理職の要件ともからむ問題である。いわゆる「名ばかり管理職」の現状についてこそ、まず問題視すべきなのだ。

「管理職だから残業手当や休日出勤手当を支払う必要はない」、これは一般的に知られ、そしておよそどの企業でもそのように運用しているが、実際には会社内で管理職としての地位にある社員でも、労働基準法上の管理監督職に当てはまらないことがある。

いや、もっとはっきり言ってしまえば、どの企業の管理職も、少なくとも課長あたりは管理監督職には当たらないのが実情だ。なぜなら、管理監督職の要件を満たしていないからである。