経済成長した分、「ボーナス」がもらえる!

では、デフレを脱却してからはどうでしょう。単純なモデルでは、長期的には貨幣成長率を技術進歩率(生産性の上昇率)と同程度にすれば、インフレ率はおよそゼロになります。技術進歩の分だけわたしたちは、インフレを起こさず、お金を増やし、配ることができるのです。つまり、貨幣発行益の持続的な源泉は技術進歩であるということができます。AIやロボットが普及した純粋機械化経済になると生産性が飛躍的に高まります。

Guy Standing著『ベーシックインカムへの道』(プレジデント社刊)

しかし、消費する人がいなければ、経済は成長できません。そこで供給の拡大分に応じた需要をつくるために変動BIでお金を配るのです。国全体で生産性が上がるほど、配られるお金が増える。これは、企業が儲かった分だけ社員のボーナスが増額されるようなものです。そのため、変動BIは「国民ボーナス」と言ってもいいかもしれません。もらえるボーナスが増えるなら、経済成長に貢献しようと前向きになる人も増えるでしょう。

この話をすると「もう経済は成熟していて、消費は飽和している。お金を配ったところで、商品の購入は増えない」と言う人もいます。しかし、本当にそうでしょうか。その理屈は一部の富裕層にしか当てはまらないでしょう。中間層以下の消費はいまなお飽和していません。わたしの教え子の学生たちは、数万円をポンと渡されたら、洋服を買ったり、友人とごはんを食べに行ったりする回数を増やすでしょう。数万円なんて、という人でも数十万円だったらどうでしょう。すべて貯金にまわすという人はむしろ少ないのではないでしょうか。お金をじゅうぶんに持っていないために買いたいものが買えない消費者が存在する限り、市中に出回るお金を増やす政策は効果を失いません。

固定BIと変動BIをうまく使って再分配と消費のよい循環をつくることで、経済は持続的に成長できるはずです。現在は、人工知能技術が発達した先の未来として、2つの意見がよく見られます。ひとつは、働かなくても自由に暮らせるユートピアが来るという楽観的な見方。もうひとつは、機械に仕事をすべて奪われ人間は破滅するという悲観的な見方です。ただ黙って変化に流されていれば、待ち受けているのは雇用の崩壊、そして貧困です。ディストピアがやってきます。しかし、変化を的確に予測し、それにあった社会制度をつくり上げることでユートピアに転換できるでしょう。

井上智洋(いのうえ・ともひろ)
駒澤大学経済学部准教授
慶應義塾大学環境情報学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論、人工知能と経済学の関係を研究するパイオニアとして、学会での発表や政府の研究会などで幅広く発言。AI社会論研究会の共同発起人をつとめる。著書に『人工知能と経済の未来』(文春新書)、『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞社)などがある。
(聞き手=プレジデント社書籍編集部 構成=崎谷実穂)
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