後任に引き継ぐこともなく、診療を中断して、集団退職

私は平成28年4月から放射線医学総合研究所病院に研修に行き資格を取得するように勧めたが、後輩医師(平成29年12月31日退職)を先に行かせることを提案したので、N医師に次いで年長医師であった放射線腫瘍科部長である後輩医師を、平成28年9月から平成29年2月まで研修に行かせ実施責任医師の資格を取らせた。

その後、あらためて平成29年4月からN医師の研修派遣を命じたところ、大川伸一病院長(当時)とN医師は、施設要件が満たされているから、N医師が研修に行く必要はないと派遣を拒んだ。しかし、先に述べたように、臨床試験実施計画書に実施責任医師として名前を掲載するのであれば、N医師本人が資格を取る必要があると説明し、職務命令で研修に派遣した。

平成29年8月、N医師は後輩医師4名を残し、自己都合にて退職した。大川伸一病院長(当時)は辞表を受理してから理事長に報告してきた。その後、11月に入り、他の4名の放射線治療医が12月末に辞職すると大川伸一病院長(当時)が報告に来たので、「当機構は年度計画に沿って運営しているので、職員は特別の事情がない限り年度末まで患者の診療に責任を持つことが義務であることを、4名の放射線治療医に伝え、年度末までは勤務するように説得すること」を命じた。

このような指示にも拘らず、平成30年1月末までに4名の放射線治療医は退職してしまった。受診中の患者さんを他科に紹介することはなく、2月からの放射線治療担当医に引き継ぐこともなく、診療を中断したのである。

厚労省の資格要件は「最低限の条件」にすぎない

N医師は実施責任医師としての資格があったのだろうか。厚労省は、資格要件として1年ないし2年の療養経験が必要と通知している。また本件について厚労省の神奈川事務所に問い合わせたところ「研究員の2年間は粒子線治療の療養に専従した期間には該当しない」との回答があった。

しかしながら、神奈川県は平成30年1月24日の「調査結果報告書」にて、下記のように厚生労働省の見解を否定している。

私が厚労省の資格要件にこだわるのは、それが患者さんの安全を守るうえで、最低限の条件だからである。私がN医師に研修を命じた放射線医学総合研究所病院では、最近の数年間は毎年約1000例の新規患者さんを受け入れている。年間の診療日を250日とすると、1日に4名の患者さんが重粒子線治療を開始している。

一方、神奈川県立がんセンターでは平成27年12月から平成28年12月までの1年1月間の重粒子線治療を受けた患者さんは105例だった。平成29年1月から12月までの1年間では218例である。しかも、神奈川県立がんセンターではほとんどの症例が前立腺がんだったが、放射線医学総合研究所ではあらゆる分野のがんを対象とした重粒子線治療が行われている。