視覚障害者向けに美容情報を紹介する音声コンテンツを作る

バラのアロマオイルを使うスキンケア、目もとが華やぐメーキャップなど、気になるテーマが聴き手の心に届く。資生堂が年4回発行する『おしゃれなひととき』は視覚障害者向けに美容情報を紹介する音声コンテンツだ。ナレーターを務める奥沢美砂さんはこんな願いを込める。

資生堂ジャパンCSR部 奥沢美砂さん

「視覚障害のある方は街を歩いていても流行の色やファッションなどが目に入ってこないので、おしゃれしたいと思えるような情報を提供したいのです。きっかけができると外へ出かけたくなるし、人に会いたくなる。たくさんの方に社会へ出て元気に活躍してほしいから、その後押しができればと思っています」

奥沢さんが網膜色素変性症と診断されたのは中学1年のとき。網膜の視細胞が障害され、徐々に視野が欠けていく進行性の難病だ。音大でピアノを専攻していたが、20歳の頃に障害者手帳を取得。白杖(はくじょう)歩行の訓練や就労支援の講習も受けた。

「何しろ働きたかったのです。親と一緒に住んでいると手助けしてもらえるし、自分もつい甘えてしまう。いずれは1人で生活し、ちゃんと自立しなければいけないと。仕事があれば、何とか生きていけるだろうという思いがあって……」

就職活動は厳しかったが、全盲の女性を採用した実績のある資生堂へ入社。社会貢献関連の業務を任された。パソコンの音声読み上げソフトなど補助具も備えられたが、慣れないオフィスでは移動がおぼつかず、誰が何をしているのかという判断も難しい。仕事がなく戸惑うこともあったと振り返る。

「周りの方も何を頼んでいいかわからず遠慮してしまうので、とにかく聞いて回りました。相手の仕事内容を尋ね、この部分はお手伝いできそう、やり方を変えればできるかも、と相談しながら、周囲の協力や理解を得て自分にもできる仕事を見つけていったのです」

初めての朝礼や全体会議では自分の障害について話し、疑問点があればいつでも聞いてほしいと伝えた。周囲の理解が深まるなかで仕事の幅も広がっていく。