イノベーションは短時間・高生産性から生まれる

もちろん女性のためだけではない。同社はダイバーシティ&WLB(ワーク・ライフ・バランス)を「経営戦略」として実行してきたが、さらに大胆な「働き方改革」に乗り出している。目指すべきは「グローバル基準並みの1800時間労働による生産性の高い働き方」。ネスレやダノンのようなグローバルトップ10を狙うことだ。西井社長はさらにこう続ける。

「働き方改革」拡大事務局のミーティングの様子。経営企画や人事部だけでなく、各組織の担当者も参加する。

「持続的な成長のためには、当然イノベーションが必要。でも長時間、生産性の低い仕事をし続けていてはイノベーションが生まれにくい。社員には、短い時間で集中できる環境をつくり、残りの時間はさまざまなキャリアのために使ってほしい。育児も大事な人生のキャリア。無駄な残業で、キャリアが犠牲になる。今は共働きの男性も4時半に帰って、子育ての一翼を担うわけです。ダイバーシティとはジェンダーや国籍だけではなく、キャリアのダイバーシティでもある。さまざまな経験、キャリアを持つ人が集まれば、いい発想や活動が生まれると信じています」

ダイバーシティの力を信じると西井社長が言いきるのは、ブラジルの現地法人社長としての2年間の体験があるからだ。

「ブラジルの会社は朝8時始業、夕方6時終業。でも、朝6時台に来て、夕方4時に帰ったりする人も多い。家族で夕食を食べたり、勉強したりするんです。よく仕事のできる人ほど時間をコントロールしている」

労働法も厳しく、効率的な働き方をするブラジルの企業に衝撃を受けた西井社長は、日本の同質的な環境に危機感を覚えていた。

「同質なメンバーで仕事をしているから、目的やテーマが曖昧なままスタートしがち。ブラジルで学んだことは、仕事というのは最初に課題、目的、やり方、すべてをダイバーシティの中で侃々諤々(かんかんがくがく)議論して決めるべきだということ。その過程で非常にユニークないい意見が出るんです。もんでから着手するので、すごい勢いで進む。こちらのほうがずっと効率がいいんじゃないかと。だから日本に帰ったらダイバーシティが生まれるような環境にしようとずっと決めていました」

▼味の素流「働き方改革」の流れ
2008年「味の素グループ WLBビジョン」策定
2012年 職場主体によるWLB向上の取り組み開始
2013年「Work@A~味の素流『働き方改革』~」の立ち上げ
2015年「ダイバーシティ&WLBコンセプト」策定