パチンコ業界とつながりの深い政治家たち

国会でカジノ解禁の原動力となったのは、超党派の「国際観光産業振興議員連盟」(IR議連)だった。かつて安倍晋三首相も最高顧問を務めるなど、自民党と維新の会を中心に国会議員100名以上が名を連ねている。

IR議連には、パチンコ業界とつながりの深い政治家が少なくない。同議連幹事長の岩屋毅衆院議員(自民党)、同副会長の羽田雄一郎参院議員(民進党)、同事務局次長の馬場伸幸衆院議員(維新の会)らに加え、同元副会長の野田聖子・総務相らは皆、パチンコ・パチスロホールの業界団体「パチンコチェーンストア協会」の政治分野アドバイザーを努めている。

パチンコ業界は衰退が著しい。愛好者の減少が止まらず、1990年代半ばには全国で1万8000軒以上に上った店舗数も、1万1000軒を割り込む状況だ。そんななか、大手業者は「カジノ」に参入し、生き残りを図ろうとしているのだ。

カジノが「4カ所以上」となる可能性を『時事通信』が報じたのは、自民党内の議論を受けてのことだ。事実、同党検討部会を座長として率いる岩屋氏は、かつて「最終的には国内の10カ所程度にカジノを建設する」と述べている。

日本は博打に未来を託す国に成り下がった

カジノの数が増えれば、外資系だけでなく日本企業にも参入の余地が生まれる。すでに海外でカジノ運営に携わる「ユニバーサルエンターテインメント」や「セガサミー」に加え、藤本達司社長がパチンコチェーンストア協会理事を務める「ダイナム」は16年、香港の子会社経由でマカオに現地法人を設立し、カジノ解禁に向けての準備も進めている。また、同協会代表理事・加藤英則氏が社長の「夢コーポレーション」は、ダイナムのグループ会社だ。

こうしたパチンコ業界の思惑が、カジノ解禁に大きく影響した。そこに外資系などの投資銀行が、根拠の乏しいレポートをつくって支援した。投資銀行にとっても、巨額の資金が必要となるカジノ建設はビジネスチャンスだ。つまり、日本におけるカジノ解禁は、外資系のカジノ運営業者や投資銀行、そしてパチンコ業界、さらには同業界と関係の深い政治家という推進派を形成し、実現に至ったわけである。いくら「反対」の世論が過半数を占めようと、野党議員にも推進派は多いのだから国民には成す術もない。

国土が狭く、他に産業の乏しいマカオやシンガポールが、なりふり構わずカジノで設けようとするのはわかる。だが、日本には世界的な競争力を有する産業も、また世界から観光客を呼び込む資源も豊富なのである。

ギャンブルに関心のない人にとっては、カジノ解禁など遠い世界の出来事に映ることだろう。しかし筆者には、日本が将来、どのような国をつくるのかという覚悟が問われているように思える。ハゲタカ外資に札束を積まれ、法律まで変えて日本のギャンブル市場を売り渡す。そして「おこぼれ」にあずかろうと、ハイエナのように群がるパチンコ業界……。安倍首相のモットーは「美しい国」づくりだったはずだが、カジノ解禁には美しさの欠片もない。いつから日本は、博打に未来を託すような国に成り下がったのだろうか。

出井康博(いでい・やすひろ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社)『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『年金夫婦の海外移住』(小学館)などがある。
(写真=時事通信フォト、iStock.com)
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