全体の7割が「VIP客」からの収入

しかし15年以降、状況が大きく変わる。16年になると、マカオのカジノ収入は279億ドルと、3年前の6割程度まで落ち込んだ。17年は332億ドルまで回復したが、ピーク時には遠く及ばない。シンガポールのカジノ収入も15年からの2年間で約30パーセント減少した。

その原因は、中国・習近平指導部による汚職撲滅キャンペーンだ。結果、ブームの中心にいた中国人客がカジノから去っていくことになった。

カジノの収入は、大口のVIP客の動向が大きく影響する。そのためカジノには一般客向けのフロアとは別に、大口客専用のVIPルームが設けられている。VIP収入は、マカオではカジノの全体の7割にも上る。

マカオのカジノ「ベネチアン」は、中国人客が大半を占める。(撮影=出井康博)

推進派が日本版カジノのモデルとするシンガポールも似たようなものだ。米大手カジノ企業「ラスベガス・サンズ」がシンガポールで運営する「マリーナ・ベイ・サンズ」は2017年第3四半期、約6億2900万ドル(約660億円)のカジノ収入を上げたが、内訳はVIPと一般客がそれぞれ約4割、残りの2割がスロットマシンとなっている。

一方、ホテルやショッピングモールなどカジノ以外を含めたマリーナ・ベイ・サンズの収入は約7億9300万ドル(約830億円)だった。つまり、カジノからの収入はIR全体の8割にも上る。推進派は「IRはカジノだけではない。国際会議(MICE)を開くためにも必要」などと強調するが、それは世論を欺くためのきれいごとだ。IRの成功はやはりカジノ次第、さらに言えば、VIPの誘致がカギなのである。

カジノ規制を導入すれば中国人VIPは寄りつかない

カジノのVIPといえば、日本では数年前、バカラで100億円を失ったとして大王製紙元会長・井川意高氏が話題となった。しかし、アジアのカジノにおける日本人の存在感は薄い。VIPの中心は、経済成長によって富を手にした中国人である。

少なくとも汚職撲滅キャンペーン以前の中国は「賄賂大国」だった。違法な手段で資産を築いた政府高官やビジネスマンも多かった。だが、彼らは現金を自由に海外へと持ち出せない。そこでカジノを経由し、資産を海外へと移転させていた。

カジノのVIPルームは「ブラックボックス」だ。マカオでは運営自体が外注され、「ジャンケット」と呼ばれるVIPの斡旋業者が担っている。ジャンケットが得るのは収入の4割といった決め事はあるが、実際の賭け金は、カジノ運営業者も把握できていない。VIPとジャンケットが話を合わせれば、1万ドルのチップを10万ドルとして計算し、カジノ運営業者へのコミッションや税金を安くすることもできる。もちろん、マネーロンダリング(資金洗浄)もやりたい放題である。そんな状況を中国指導部が問題視し、政府高官らのマカオ行きを監視し始めた。そのため中国人VIPが遠のき、カジノの収入は激減した。

マネーロンダリングの問題に関し、安倍首相は「世界最高水準のカジノ規制を導入する」と表明している。中国との通じるマカオやシンガポールと違い、日本には言葉のハンディもある。当然、中国人VIPは寄りつかず、収入の柱とは成り得ない。