不動産の買い時・売り時、いつがいいのか?

2019年10月に消費税が10%にアップする前の駆け込み需要がどうとか、東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年に不動産価格が暴落するとか、目先の住宅問題はいつの時代もかまびすしい。

家を買いたい人、家を売りたい人にとって住宅の買い時や売り時は最大の関心事だろうが、日本人の住宅観自体が変容して住宅問題に大きな影響を与えていることを大局的に理解しておくべきだと思う。

住宅着工件数が経済指標になっているように、戦後、日本政府は一貫して住宅を景気刺激策として利用してきた。「夢のマイホーム」などと不動産デベロッパーがふり撒く持ち家信仰を、住宅金融や優遇税制その他の住宅政策で後押ししてきたのだ。バブル崩壊前までは、住宅ローンを組んで家を買うことにそれなりのメリットがあった。買った土地の値段が上がる可能性があったし、家主の昇進昇給を前提にローンの返済計画が立てられたからだ。

都内でも空き家が増えている(多摩ニュータウン)。(時事通信フォト=写真)

しかしバブル崩壊によって不動産の価値は暴落した。さらに1990年代半ば以降、名目的な昇進はあるものの、右肩上がりの昇給はなくなってしまった。

政府が罪深いのはバブル崩壊直後の92年に景気対策として「ゆとりローン(ステップローン)」を導入したことだ。これは最初は金利を安くして月々の返済額を抑え、(景気が回復して、給料や地価が上がっているであろう)6年後とか11年後から金利が上がって返済額が大幅に増えるローンで、「家賃並みの返済額で家が買える」と利用者を募り、住宅購入を煽ったのだ。

しかし、日本はそのまま「失われた20年」、世界に例のない大デフレ時代に突入、給料も不動産価格も上がらずに、逆にリストラや企業倒産が相次いで収入を維持することすら難しくなった。

当然、ゆとり返済期間終了後の返済額増加に収入が追いつかずに返済に苦しむ人が急増して、ローン破綻が続出した。住宅ローンの残債を別の金融機関で借り直して一括返済する「借り換え」をしようにも、住宅の残存価値がローン残債より高くなければ金融機関は金を貸してくれない。

実際、借り換えがほとんどできないくらい住宅価格は落ち込んだ。返済期間の繰り延べなどの救済策も取られたが、返済期間が長くなればトータルの返済額は増えるし、定年後もローンを払い続ける悲惨な老後が待ち受ける。

バブルのピークから90年代前半にかけて「通勤時間1時間20分、郊外一戸建て6000万円」のような、今聞けばとんでもない値段の物件が出回って、それに「ゆとりローン」を組んで手を出した人が結構いた。その後96年にバブルが完全に崩壊して住宅の売り買いが止まり、再び動き出したのが00年以降。05年くらいから通勤時間40分ぐらいの都心近郊で4000万円台のマンションが相当出回るようになった。しかも目先のゆとりで釣る姑息なローンではなく、長期固定金利ローンの「フラット35」。返済期間は最長35年で、金利(一時は1%を切った)は一律である。

30年前に6000万円の家を買って定年間際になってもローンで苦しんでいる人たちは、1時間20分もかかる通勤電車の中から途中駅に建った4000万円台の新築マンションを眺めると、恨めしさがひとしお胸にこたえるわけだ。