入試問題の出題ミスは大学だけに限らない。中学受験塾の代表・松本亘正さんは「名門といわれる私立中学でも出題ミスが起きています。合否にも大きな影響があったはずです」という。どんなミスだったのか。そして受験生はそうしたミスにどう対処すればいいのだろうか――。

出題ミスによる「受験生全員満点」で損する賢い受験生たち

2017年、京都大学と大阪大学の一般入試で出題ミスがあり、大きな社会問題となった。京大で17人、阪大では30人が、合格していたはずなのに不合格と判定されていたからだ。「再発防止」を誓っていたが、今年の京都大学の入試でも、化学で複数のミスがみつかり、試験中に問題が削除・訂正される騒動が起きた。

実はこうした入試問題のミスは、大学受験だけの話ではない。

2月16日、開成、麻布に並ぶ「御三家」、武蔵中学(東京都練馬区)の梶取弘昌校長は、塾・出版社向けの入試説明・意見交換会の冒頭、入試問題の不備について謝罪した。

「何よりも受験生の皆さんにご迷惑をおかけしたことをお詫びしたい」

今年2月1日に実施された武蔵中の受験では、入試問題の不備により「国語」で2問、「社会」で3問のあわせて5問、受験生全員が満点となった。これは「たった5問のミス」ではない。何が起きたのか。出題ミスの詳細について紹介したい。

▼御三家・武蔵中学のイージーすぎるミス

武蔵中のウェブサイトには、「出題に関するお詫びとご報告」が公開されていて、だれでも内容を確認することができる。

武蔵中学のウェブページに掲載されている「2018年度入学試験『国語』出題に関するお詫びとご報告」。国語の問六(1)の解答欄の不備に関する説明。

まず2問のミスがあった「国語」について。

「問六(1)」は、出題文の中にあった「退路を断つ」という言葉の意味を所定の段落から13字で抜き出すという問題だった。解答欄は「■■■■■■■■■■■■■(13字の空欄)という考え方を捨てること。」とすべきなのに、「という考え方を捨てること。」いう言葉が抜け落ちていた。ささいなミスに見えるが、空欄だけの解答欄と、文末に言葉が補われている解答欄では、答え方はまったく異なる。

また関連する「問六(2)」も全員正解となった。「(1)の答えのような態度をとると、なぜ人間が進化していくことになると筆者は考えているのですか。」という記述問題で、武蔵中の試験問題で恒例となっている字数制限のない広い解答欄に書くというもの。これを一生懸命書いた子も、何も書かなかった子も一様に同じ得点となる。

武蔵中の国語の試験時間は50分。問題数は漢字・語彙が9問、接続語5問、その他6問の合計20問で、そのうち4問が長い記述問題だった。配点は公開されていないが、記述問題は1問10点以上だろう。子供たちはミスのあった問題についてもかなりの時間をつかって解答を書いたはずだ。とりわけ国語の記述問題を得意とする受験生にとっては、明らかに不利な形となった。一般的に、記述問題は漢字・語彙や接続語といった基本問題や選択問題より受験生の実力差が出るので、このミスの影響力は極めて大きいと思われる。