ここで「私の診察の範囲では、あなたの不調を説明する異常が今は見つかりません」とか「今のところ診断はわかりません。一時保留させてください。もう少し時間をかけて(2~3週間)、みせてもらえませんか」と、わからないことを正直に伝えることこそ良医の態度だと思います(これは前回述べました)。結局、医師のこのような真摯な態度が、早期発見につながるようです。

以上、述べてきた理由によって、患者側も医師側も忍び寄っているうつの足音を感じ取れないことがあるようです。

早期発見のコツ――普段から気を付けること

健康は「失ったときにそのありがたみがわかる」と言われるように、精神の健康もしかりです。そこで私なりに考えている普段の留意点を、いくつか述べてみます。

(1)うつを知ること

誤解や偏見から解放され「誰でもいつでもどこでも」かかる可能性があることを常に頭の片隅に置いておくことです。この啓蒙という点からは「心の風邪」キャンペーンも一躍買いました。「これってうつの始まり?」と疑ってかかることが大切です。

最近は、総合診療医(General Practitioner:GPもしくはプライマリケア医とも呼ばれる)と言われる、あらゆる疾患の基礎トレーニングを受けた医師らが活躍し始めました。彼(彼女)らの、診断・治療はかなり正確です。また自分の守備範囲を超えたら、すぐにわれわれ専門の医師に紹介する態度を持っています。

また一般医対象に、うつの研修会が活発に開かれはじめ、見落としを少なくする努力も始まりつつあります。

不調を感じたら、できればこうした医師を訪れるよう心がけましょう。総合診療科という標榜科目をめどに受診されたらいいでしょう。また日本のほとんどの大学病院や総合病院には、総合診療部という名前で外来が開設されています。

(2)不眠、食欲低下、便秘が続いたときは要注意

脳の不調を図る最も感度のいい指標は、「睡眠」「食欲」「排便」です。「これが続くとうつになるかな~」と頭の片隅に。その意識を置くことです。

自然と回復すれば良し。やはり「快食」「快眠」「快便」は大切です。メドとなる期間は2週間と考えましょう。2週間以内に問題がなくなれば、脳の不調も自然と回復します。

(3)自分の興味(いつもやっていること)を知っておく

患者さんに「趣味は?」と尋ねると「ゴルフや読書といった立派な趣味はもっていません」と答える方が少なくありません。このため私は「ゴルフとか立派な趣味じゃなくてもいいから、暇さえあれば(気が付くと)やっていることは何ですか?」と尋ねるようにしました。そうなると「貧乏ゆすり、鼻くそほじり、晩酌、部屋のかたづけ……」といった答えが返ってくるようになりました。なんでもいいのです。これが一つもないという健康人はいません。

こうした行動も趣味とみなすと、うつ病は、最初にこうした趣味をやることがおっくうになり、つらくなるようです。私は、晩酌と野球観戦が趣味なので、帰宅してもビールを飲まずナイター放送も見ないで床に向かう行動が続けば、すぐ知り合いの精神科医に相談しようと思いますし、家族にもそう伝えています。