オンラインショッピングモール大手R社は、保有するプロ野球球団からオールスター選手が多数選出され、話題となっている。一方、積極的なM&A戦略の結果生じた、いわゆる「のれん」の経理処理をめぐって、おととし企業会計基準委員会(ASBJ)との激しい論戦を繰り広げたことも会計業界の大きな話題となった。のれんの一括償却廃止に先頭を切って反対している印象を受ける同社だが、数年前の決算まではのれんの一括償却で税金や配当を低く抑えることができた黄金のテクニックを奪われるのだから、ひとり声高となるのも合点がいく。

2006年の会社法施行を境に、連結決算で重要な項目の1つである「のれん」の処理方法が変わった。のれんとは「事業を買収したときに支払った対価(買収代金)と、買収で受け入れた純資産(会社の帳簿上の価値)の差額」のことである。

ある人がそば屋を開業したとする。はじめに、自己資金300万円を出資した。これをすべて厨房設備の取得に充てたとしよう。つまり開業時の設備評価額は300万円、資本金は300万円である。

1年間たって売上高が500万円、必要経費が400万円として、差し引き100万円の利益を稼いだ。減価償却を無視すれば、1年後の財産状況は現金100万円+固定資産300万円=400万円となる。この400万円は、そば屋の帳簿上の純資産であり、「ブック・バリュー」とも呼ばれる。もし、この「現金+設備」の単純合算である400万円でお店を売ってほしい、と大手チェーンがM&Aを提案してきたらどうであろう。

これまでどおり店を営業していれば、固定客や店独自の味や継続的に開店していることによる店の信用など、見えないブランド価値があるため、今後も継続的に年100万円の利益が入ってくると考えられる。さすがに「ブック・バリューの400万円では営業譲渡なんてしたくない」、と考えるのが人情だろう。

では、M&Aに応じてもよいと考えるのは、どれくらいの額を上乗せしたときだろうか。実務を意識したおおざっぱな水準としては、中小企業なら今後2年から5年くらいで見込まれる利益を純資産(ブック・バリュー)に上乗せすれば、おおむね妥当な範囲とみなせるだろう。

そば屋の事例だと、営業権を利益の3年分と仮定するならば、現金+設備の価値である純資産400万円に、年間利益100万円×3年=300万円を足した計700万円で事業の売却価格を決められる。上乗せされた300万円が「のれん(営業権)」と呼ばれるものなのである。

のれんは、その事業の将来的な収益期待を評価した額なので、永久に続くか、一定年数で目減りしていくか、採用する仮定によってその後の業績表示が大きく変わる。日本の会計ルールでは06年度より、のれんは将来的に「少しずつ」目減りして消滅する仮定を前提に、20年以内に均等額を「営業費用」として償却(目減りさせる処理)することになった。

それまではR社が採用していたように、のれんの発生年度に一括で償却することができた。一括して巨額な費用を計上した場合に、臨時・異常な損失(特別損失)という区分で損益計算上表示できるため、営業費用として処理しなくてよく、営業利益を良く見せることができたのである。

R社のケースでは、図でも示したように、04年度までは一括償却(取得年度にゼロ評価)をしていたのがわかる。05年度や06年度などは、のれんが20年かけて少しずつ償却されていることから、600億円前後の「のれん」を計上せざるをえなくなっている。M&Aを積極的に展開する企業にとっては、巨額なのれんの会計処理方法の違いで、決算発表の印象が大きく変わってくるので、注意が必要になるのである。