エネルギー施設など各種プラント事業を手掛ける総合エンジニアリング会社・日揮では、受注していた海外プロジェクトに関わる和解金についての臨時報告書を1月31日に管轄する財務局長へ提出した。そこには2011年3月期の第3四半期の損益計算書で、合計201億5200万円の特別損失を計上する見込み、と記されていた。

異常な費用を処理した2011年3月第3四半期の決算書

異常な費用を処理した2011年3月第3四半期の決算書

同社は米、仏、伊の企業と共同で、ナイジェリアにおけるLNG(液化天然ガス)プラントプロジェクトを受注。しかし、ナイジェリア政府関係者への贈賄疑惑が発覚して、仏司法当局、米国司法省、同証券取引委員会の調査を受けていたのだ。

実際に2月10日に発表された第3四半期の決算報告書では、ナイジェリア政府とすでに和解した分の23億2200万円を「和解費用」として特別損失に計上。さらに米国司法省と和解を図る方向で、178億3000万円を「和解費用引当金」として貸借対照表の負債の部に計上する一方、同額の「和解費用引当金繰入額」を特別損失として計上した。

引当金は、将来に発生する可能性が高い費用や損失のうち、当期以前に原因があり、金額を合理的に見積もることができる場合に計上される。日揮の米司法省との和解金は、これらの条件を満たすものと判断されたのだろう。

会社法に基づき有価証券報告書を提出している企業では、何らかの企業活動によって貸借対照表などの財務諸表に著しい影響を与える事象が発生した際に臨時報告書の提出が義務付けられており、日揮のケースもそれに則った措置である。そして、このような法的な係争や不正などに関する“異常な費用”は、特別損失として扱われる。

一方、金額が小さく、日常的によく起きる異常な損失については、「営業外費用」や「販売費」として扱われることが多い。

たとえば、営業マンや宅配会社の社員ドライバーが駐車違反などの交通違反を犯し、反則金を科せられた場合である。企業サイドも法律遵守を徹底させているはずだが、業務上完全に避けるのは難しいだろう。そうした場合に社員個人ではなくて会社が負担するのなら、営業外費用として処理したり、官公庁に納めることから「租税公課」として扱う。

もちろん、反則金の支払いで会社の利益は目減りする。しかし、税務会計では反則金は費用(損金)として認められない。もし認められれば、反則金で節税できることになってしまう。そんなブラックジョークのようなことを税務署が許さないのは当然だろう。

そこで、損益計算書上では反則金を営業外費用や租税公課に算入しておき、法人税申告の際に反則金の金額を利益へ足し戻す。連載第91回でみた、税務上の損金と認められない交際費の扱いと一緒だ。

万引きによる損害も利益を損なう。これは営業費用の「棚卸資産減耗費」として扱ったり、企業によってはそのまま売上原価に含める場合もある。また、倉庫の管理を厳重にしていても、貴金属などの高価な材料が紛失することがある。この場合は「原材料消耗費」として製造原価に含めるケースが多い。落として破損したり、液体が蒸発したといった棄損も同じ扱いだ。

万引きにしても、紛失にしても、それを防ごうと警備員を配置したり、盗難防止装置などを導入すれば、当然のことながらコストがかさむ。やはり、費用対効果を計算しながら判断するしかないだろう。

そうそう、飲食店で忘れてならないのが食い逃げされたケースだ。もちろん“食い逃げ損失”といった科目で計上されることはない。実際には販売費に含めて処理してしまうことが多いようである。

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)