円安・株高を最優先する安倍首相、引き締めを狙う黒田総裁

足元の日本経済は、円安、株高、低失業率という「適温経済」を享受している。そんな中、安倍官邸も、日銀のひそかな引き締めへの動きを黙認にしてきたと言えよう。安倍首相と黒田総裁は、消費税の先送りをめぐるさや当てなどはあったものの、この5年間、おおむねうまく歩調を合わせてきた。

しかし、安倍首相は今秋に自民党総裁選、来年には参院選を控える。さらに政治的な信条である憲法改正も浮上してくるだろう。そうした中で、当面の円安、株高を最優先する安倍首相と世界経済のリスクを踏まえて、引き締めへの野心を抱く黒田総裁の間には緊張関係が生まれることは避けられないだろう。

そうした中で、アイデアマンで現実主義の雨宮氏がどのような金融政策を編み出し、強力なリフレ派の若田部氏が緩和継続、強化にどのような論陣を張るのか――。

デフレ脱却の一点で協調している首相と日銀総裁だが、思惑の違いは潜在的に広がっている。黒田総裁が異次元緩和の出口に向かう中で、政府との協調に乱れが生まれれば、株式、債券を始めとする金融市場が大きく動揺しかねない。

実際、黒田総裁は3月2日の衆院議員運営委員会で所信表明と質疑に応じる中で「現時点で18年度ごろに出口について具体的な議論を探るとは考えていない」と言及するなど市場やメディアの間で広がる引き締めへの転換観測の火消しに努めた。これは、首相と総裁の間に広がる「思惑の違い」を意識したものだろう。ただ、黒田氏の発言の文脈を超えて「出口戦略を議論」というキーワードにだけ市場が反応、長期金利が上昇、円高が進む場面があるなど、早くも波乱含みだ。

2期目の黒田総裁には、1期目とは比較にならない孤独と重圧が待ち受けている。

小野展克(おの・のぶかつ)
名古屋外国語大学教授。1965年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。89年共同通信社入社。日銀キャップ、経済部次長などを歴任。嘉悦大学教授を経て、2017年より名古屋外国語大学教授、世界共生学科長。博士(経営管理)(2016年)。著書に「黒田日銀 最後の賭け」(文春新書)、「JAL 虚構の再生」(講談社文庫)、「企業復活」(講談社)などがある。
(写真=時事通信フォト)
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