失業率が改善、平均賃金も上昇

では、このような軍拡が実際に景気刺激の効果を及ぼしたのでしょうか。まず、雇用において、大きな改善が見られました。失業率が改善し、平均賃金も上昇(軍需産業の労働者賃金は、民需産業のそれよりも20~30%程度高かったため)。軍需産業が潤い、労働者層の広範な安定成長が達成され、内需が拡大していきます。軍需産業は労働者の雇用を支え、アメリカ経済を力強く牽引していきました。

1961年、アイゼンハワー大統領は退任演説において、肥大化する軍需産業を「軍産複合体(Military-industrial complex)」と呼び、それらが過剰な社会的影響力を持っていることに対し、警告を発しました。

軍産複合体の典型的な会社として、ロッキード社(航空機)、ボーイング社(航空機)、レイセオン社(ミサイル)、ダウケミカル社(化学)、デュポン社(化学)、ゼネラル・エレクトリック社(電機)、ノースロップ・グラマン社(軍艦、人工衛星)、ハリバートン社(資源生産設備)、ベクテル(ゼネコン)、ディロン・リード社(軍事商社)などがあり、またスタンダード石油に代表される石油メジャーが含まれることもあります。

対外戦争で儲けてきた「成功体験」

アメリカは1898年の米西(アメリカ・スペイン)戦争以来、対外戦争で大きな利益を上げてきました。経済成長に最も効果があったのは第2次世界大戦でした。戦争前、1938年の1人あたりGDP成長率はマイナス4.72%(『Angus Maddison, OECD  The World  economy---A millennial perspective』)でした。これは、1933年からはじまるニューディール政策の財政出動を終わらせ、緊縮財政に方向転換したことで引き起こされた大きな景気後退でした。

1939年、大戦がはじまると輸出産業を中心に活況を呈し、1人あたりGDP成長率は7.1%に好転し、景気が急回復していきます。太平洋戦争が本格化し、戦時動員体制が取られた1942年には、1人あたりGDP成長率は史上最高の18.7%を記録します。16%近くあった失業率は3.9%に改善されます。