一番の難関は、新規顧客をつかまえること

経営の勉強を始めて、最初に刺激を受けたのがライフサイクル論だった。商品にも企業にも寿命があり、ピークを迎えたら徐々に落ちていく。われわれのようなインフラ系企業は他業界に比べれば寿命が長いはずだ。しかし、将来の安定を考えると、柱となる事業が複数ほしいと考えた。理想を言えば5つくらい。そこで、本業のプロパンガス販売にくわえて、環境ビジネス(飲食店の油脂清掃)と住宅リフォームに相次いで参入した。

何と言っても、新規事業でもっとも難しいのは、新しいお客様をつかまえることだ。時間とコストがかかる。どれだけいい商品や技術があっても、新規顧客の開拓ができず、その間に資金が底をついてしまう会社が多い。その点、われわれはプロパンガス販売で5万軒のお客様を持っていた。リフォームの有力な営業先だ。

ただ、既存顧客だけでは大きなビジネスにならないことがすぐにわかった。リフォームは一生に数回しかしないからだ。商圏を広げるか、他社の顧客を奪うしか、事業を拡大する道はなかった。手ごたえはあったが、私が目を離して停滞してしまった。

そのうち、リフォームのブームが訪れ、新規参入が一気に増えた。今やリフォームビジネスは過当競争に入り、利益が出にくくなっている。われわれは本業が別にあるからまだいいが、リフォーム専業の会社はとくに厳しいだろう。その証拠に、そういった会社から優秀なマネジャーを引き抜けるようになった。引き抜いた人材を所長にして、営業所を徐々に増やしている。リノベ―ションに力を入れるなどして、私が再びリフォーム事業を見るようになったから、売り上げが伸び始めた。

過当競争になって、潰し合うのはごめんだ。無用な競争を避けるために、誰も想像していない、新しいビジネスを始めるつもりだ。

同業者が、誰も想像しない新ビジネス

かつて、プロパンガス会社は価格競争に巻き込まれることもなく、経営は安定していた。リスクを取ってまで新規事業に乗り出す必要はなかった。同業の社長たちには、セミナーを聞きに行ったり、勉強会に行ったりはして、すぐに実行に移す者などいなかった。しかし、自由化による競争激化と猛烈な省エネルギー化(ガス給湯器のエコ性能は上がり続け、消費量も劇的に減っている)のなかで、もう悠長なことは言っていられない。

このままいけば、われわれも同業他社と争うことになる。行く末は、価格競争だ。勝っても地獄、負けても地獄。悲惨な結末が見えているので、争うことはやめ、同業他社に協力したいと考えている。同業他社が顧客に対していいサービスを行うため、われわれがノウハウを提供し、その対価をいただく。あまりくわしく言えないが、ノウハウとは技術的なことだけでなく、販売や人事まで含まれている。この間、ずいぶんいろいろ試して、作り上げてきた。業界としては、女性社員の比率が極めて高いのも、その一環だ。

私は激しい環境変化を予測し、備えてきた。同業他社に先んじて、失敗も成功も、数多く経験している。転んで、すりむいて、もがきながら、立ち上がってきた。同業他社がわれわれに追い付くには、相当な時間がかかるだろう。

商売の本質は「時間」を売ることだ。はやく湯を沸かし、はやく部屋を暖める手段としてガスを売っているのも、逆に、他社から幹部社員を引き抜いて社員を育てる時間を買っているのも、同じ理屈だ。だから、同業他社がわれわれのノウハウを買うのもまた自然だ。