比較的最近の本では、『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(クレイトン・クリステンセン著)が興味深かった。産業界では、優良企業が破壊的イノベーション技術を持った企業に主役の座を引き渡すケースがたびたび起こります。本書はその現象を具体的に分析し、優良企業の経営モデルに対するアンチテーゼを提起しています。

優良企業は、市場環境と顧客ニーズに対応して商品やサービスを改善する、いわば正統的な経営モデルで市場に君臨してきました。しかし、その延長線上には、市場を根底から変える破壊的なイノベーション技術が生まれにくく、いずれ時代から取り残される危険性もある。そこに優良企業のジレンマがあります。

私たちの通信業界でいえば、破壊的技術の例としてインターネットがあげられます。それまでの通信は、中央で全体をコントロールして品質を確保するというコンセプトで行われていました。しかし、インターネットは通信網を自律的に走るロボット型で、コントロールは難しい。当時の通信業界では、「品質は悪いし、いつ届くかわからない。こんなものは使えない」という意見が大勢を占めていました。幸い私たちはいち早くインターネットの可能性に気づいて対応できましたが、気づくのが遅れていたらどうなっていたのか、想像するのが怖いくらいです。

お客様は、現在のニーズを伝えてくれても、5年後についてはなかなか教えていただけません。社内でも「アンケート調査は大切だけど、それだけで商品開発してはいけない」と口を酸っぱくして言っています。変革の時代を生き抜くには、近視眼的に今を見るだけではだめで、時代を中長期的に見渡す力が必要なのです。

近視眼から抜け出すという点では、『森林の環境・森林と環境』(吉良竜夫著)も参考になりました。著者は長年の研究データをもとに、森林は環境安定化装置の役割を果たすと説き、森林保護と再生を訴えています。本書に出合ったことを契機に自分でも勉強を進めたところ、より広い視野で環境問題をとらえることができるようになりました。

たとえば京都議定書によると日本はCO2削減目標6.0%(対90年)のうち、森林の吸収力に約3.9%を割り当てていることをご存じでしょうか。私たちもICT(情報通信技術)を通してCO2削減に貢献する努力を続けていますが、森林に依存する部分はかなり大きい。こういった知識のベースができると、身近な環境対策だけでなく、自然の力を活用した根本的な対策が必要であることが見えてきます。視野を広げて先を見る目を養ってくれるのが読書のよさでしょう。