モルディブの政治危機に日本人が注目すべき理由

インド洋の島国モルディブで政治危機が起きている。政府と野党側の対立が深まり、非常事態宣言が出された。その背景には中国の政治干渉があるとみられ、事態が緊迫している。

外務省などによると、2月1日、最高裁が野党のナシード元大統領(英国亡命中)を含む政治犯9人を無罪として、釈放などを命じた。だがヤーミン大統領はこの命令を無視。野党側は反発して抗議デモを行ったが、大統領は非常事態宣言を出し、最高裁判事2人を逮捕した。こうした事態を受け、ナシード氏はインドに、大統領は中国に支援を求め、対立が深まっている。

政府が裁判所の命令を無視する。日本では考えられない事態である。三権分立の欠如どころか、これでは北朝鮮に引けを取らない独裁国家だ。とても民主主義国家とはいない。

モルディブの首都マレ(写真=アフロ)

「楽園」は独裁国家に逆戻りしかねない

2月18日付の日本経済新聞は、この問題を社説のテーマに選び、「心配なモルディブの政治危機」という見出しを付けていた。その3日後、今度は読売新聞が「中国の『干渉』に警戒が必要だ」との見出しで社説(2月21日付)のテーマに選んできた。

モルディブという島国の内政問題を新聞社が社説のテーマに選ぶのは異例のことだ。その背景には中国の海洋進出に対する警戒心がある。中東から多くの石油を運んでいる日本にとって、モルディブは海上輸送路にある重要な国だ。中国が進出してくれば、安全保障を脅かされかねない。

日経社説は「大統領は野党政治家の拘束や国会の封鎖にも踏み切った。2008年に初の民主的な選挙を実施してから10年。『楽園』とも称される高級リゾートの国は独裁に逆戻りしかねない情勢だ」と書き、次のように主張する。

「米欧諸国や国連の高官から懸念や失望の声があがっているのは当然だろう。年内には大統領選も予定されている。ヤミーン大統領は強権的な姿勢を改めるべきだ」

その通りである。南の小さな国であろうと、いまの時代に強権政治などもっての外である。

大統領は中国、野党はインドを頼っているが……

なぜ大統領の強権がまかり通っているのだろうか。この点について日経社説はこう解説する。

「モルディブは伝統的に対印関係を最重視してきたが、13年に就任した大統領は対中傾斜を鮮明にしてきた。『一帯一路』構想への参加で中国と覚書を交わし、17年12月には中国と自由貿易協定(FTA)を締結した」
「こうした動きにインドは神経をとがらせてきた。ヤミーン政権下で投獄され現在は海外に亡命中のナシード元大統領は、軍をバックにした特使の派遣をインドに求める声明を出した」
「対して大統領は中国とサウジアラビア、パキスタンに特使を派遣し理解を訴えた。中国は外部からの干渉への反対を繰り返し表明しインドをけん制している」

背景にインドと中国の国家利益が絡んだ問題が横たわっているのだ。中国がインド洋に進出するための足場にモルディブを利用しようとしているわけだ。このままだと、国際的な大問題へと発展しかねない。

最後に日経社説はこう主張する。

「日本はながくモルディブに対する最大の援助国となってきた。『自由で開かれたインド太平洋戦略』をかかげる安倍晋三政権は、危機の打開へ知恵を絞るべきだ」

まさに日本の外交の腕の見せどころなのである。