日本には“絶対買いたい”高額商品が少ない

――外国人旅行客に対して、どのような商品やサービスを提供すればいいのでしょうか。

日本の製品は品質がいいという前提でインバウンドは薬や化粧品、家電製品を買っていますが、「日本に行ったらこれを絶対買いたい」と思う魅力ある高額商品が少ない。ロンドンやパリに行ったらブランド店や服飾・宝飾品の名店がたくさんあるのに比べ、日本はこれという店が多くはありません。さらに、旅行会社から見ると、東京や大阪に日本の伝統工芸品を総合的に扱う店が少ないのはおかしいと思います。外国人旅行客が日本全国の伝統工芸品のショッピングを楽しめるような施設が必要だと思います。

――欧米豪からの旅行客は、そうした工芸品への関心が高く、滞在日数も長いそうですね。ただし欧米豪からの旅行客はインバウンド全体の12%にとどまっています。テコ入れには何が必要でしょうか。

ヨーロッパ発アジア行きの定期便の航空運賃には団体運賃などの割引運賃の設定がありません。それでも東南アジアには多数の旅行客が来ている。これは東南アジアの各国が「チャーター便」に力を入れているからです。一方、日本の空港はチャーター便の着陸場所が少ない。また離陸時にエンジンを点火する外部電源のスターターも足りません。チャーター便を増やすことができるような航空インフラの整備が必要でしょう。

――インバウンドを受け入れる宿泊施設は足りるのですか。

東京のホテル稼働率は8割ですが、新幹線に1時間乗れば、地方都市に泊まれますから、地方に旅行客を誘引すればいい。さらなる外国人観光客を受け入れられるポテンシャルが日本にはあります。ヨーロッパはフランス、スペイン、イタリアも、地方の宿泊施設は部屋数も少なくて対応できる人数に限界があります。

――訪日客を増やすうえでは、交通インフラにも課題があります。

航空便数の増加と空港整備、港湾整備が必要条件です。特に必要なのは港湾整備だと思います。日本の港は寂しいですよ。横浜港に停められる大型クルーズはせいぜい2、3隻。マイアミ、ヘルシンキ、バルセロナなどのリゾート地の港は平均10隻です。この光景を見てしまうと、日本との差に愕然とします。

日本の港はもともと漁港や貨物港です。当社(東京・天王洲)の周りもガントリークレーンが並ぶ、コンテナ埠頭ばかり。海外で、東京ほどの大都市なら、クルーズ船が10隻くらい停泊していてもおかしくないはずです。

人口約400万人の米ロサンゼルス市には「マリナ・デル・レイ」という世界最大のマリーナがあります。5000隻以上のヨットが係留されていて、その光景は壮観です。なぜ日本にはこのようなマリンリゾートがないのでしょうか。

既存の港をリゾート港にするにはどうすればいいか。日本は今まで製造業優先、漁業権優先で港湾整備をしてきましたから、大改革が必要です。9年前、クイーン・メリー2号が大黒埠頭の貨物ヤードに寄港しました。横浜ベイブリッジをくぐれず横浜大桟橋に入港できなかったからです。家を訪問して、玄関はただいま工事中なので勝手口からお入りくださいと言っているようなもの。クルーズ旅行には1000万円を支払うような富裕層のお客さまもたくさんいますが、これでは「おもてなし」として不十分です。東京五輪までに準備しなくてはならないことだと思います。

10万トン級以上の船は一隻に3000~4000人が乗り込んでいます。港に入るだけではなく、港からの移送には100台のバスが必要です。ターミナルがあればよいのですが、せめて下船するところに屋根は必要でしょう。屋根がなければ、到着日に雨が降っていれば傘をささなくてはいけません。