大きな成功を生む「4つの方法」

事前合理性と事後合理性

事前合理性と事後合理性

図には4種類のケースとその結果が示されている。左上は、事前の情報をもとに理にかなっていると思って選択を行ったが、その理屈どおりの結果がもたらされたというケース。それは成功だが、その成功はあまり大きくないことが多い。そのように確かな理屈が成り立つのであれば、他の人々もその行動を選択し、競争が激化するからである。小さな成功である。左下は、事前合理性があるとして行動を選んだが、その後想定外のことが起こって理屈が成り立たなかったケースである。これは失敗であるが、事前に理屈が成り立つと思っているから投資は大きくなりがちである。その結果、失敗によって大きな損失がもたらされることが多いだろう。

右上は、理屈は成り立たないと思ったがあえて行動に移したところ、幸運にして理屈が成り立ったというケースである。事後的な合理性を持っているからこれは成功だが、多くの人々は、このような理屈が成り立たないことはしない。成功を独り占めにできるので成功は大きくなる。右下は、理屈が成り立たないと思ったがあえて実行してみたところ、予想通り理屈が成り立たなかったケースである。これは失敗だが、理屈は成り立たないと思って選択をしているのだから、投資はあまり大きくならないはずだ。失敗といっても損失は小さい。

この図をもとに合理的な選択がどのような結果をもたらすかを考えてみよう。図の左側は事前に理屈がかなっていると考えて行われる選択である。この場合は、上の小さな成功と、下の大きな失敗がもたらされる。大きな成功を得ようとすると、右側の選択を行わなければならない。理屈は成り立たないが、実行してみようという選択である。この選択をするのは難しい。とりわけ大きく歴史のある組織ではこの選択を行うのは難しい。しかし、このような選択が行われないと大きな成果は得られない。人々はこのような選択を行うための知恵を生み出してきた。その知恵を探ってみよう。

その第一の方法は、選択に遊びの要素を入れること。理屈が成り立つという根拠ではなく、面白いからというような根拠で選択が行えるようにしておくことである。第二は、理屈に頼らなくてもいい選択を行う能力、アリストテレスのいう賢慮を持つリーダーや参謀に選択を委ねることである。

第三は、多様な人々にそれぞれ独立した選択を行わせることである。シリコンバレーでユニークなアイデアが生み出されやすいのは、シリコンバレーには、それぞれ異なった考えを持つ多数のベンチャーキャピタリストがいるからである。第四のもっとも単純な方法は、薄く広く資源配分を行うことである。因習的に見えて意外によい結果につながっていたのかもしれない。日本の多角化企業の多くは、どの技術分野にもまんべんなくバラマキ型の資源配分をしてきた。その非合理性を反省し、資源の選択と集中をするようになってから、面白いイノベーションは出てこなくなってしまったのは皮肉である。これも合理的選択の弊害である。

日本の社会では、事前合理性を重視した選択への傾斜が見られる。実際に政治の世界でも企業の中でも、事前合理性に基づいた資源配分がますます重視されるようになってきた。その典型は話題になっている「事業仕分け」である。不確実性の高い世界で、ある選択のリスクを考え始めたら、どのような選択も非合理と判断されてしまう。しかも、そのような選択は、組織の論理にも合致する。期待外れの結果が起こったときに弁解がしやすいからである。多くの人々の意見を集約すればするほど、合理性志向の選択が行われてしまう。

本当に行わなければならないのは、よい結果を得るためのリスクテーキングである。合理的選択に頼ってしまう人々の弱さを考えなければならない。

(平良 徹=図版作成)