「すべて私が把握しているわけではない」は大人げない

次に朝日社説は安倍首相に批判の矛先を向ける。

「疑問に答える先頭に立つべきは、行政の責任者である首相だ。裁量労働を広げても心配ないと言わんばかりだった基本認識が問われる。ところが首相は『厚労省から上がってきた答弁(案)にデータがあったから、紹介した』『すべて私が詳細を把握しているわけではない』と、ひとごとのようだ」

安倍首相が大嫌いな朝日新聞だけある。安倍首相も「すべて私が把握しているわけではない」と開き直るが、端から見ていると、大人げない。

今回の問題の原因は、最初にこの沙鴎一歩が指摘したように厚労省の杜撰な体制と危機管理の欠如にある。厚労省が間違っているのだ。

朝日には厚労省の責任をもっと追及してほしい。

閣議決定は3月に先送りへ

そのあと朝日新聞は2月23日付の社説でも「裁量労働制」を取り上げ、こう訴える。

「裁量労働制の対象拡大など、規制を緩和する部分を『働き方改革』法案から切り離す。現場の実態を調べ、国民が納得できる制度を練り上げる」
「政府はそう決断するべきだ。急がねばならないのは、残業の上限規制など働き過ぎの防止策である」

この朝日社説が出る直前、政府は2月の月内を目指していた働き方改革関連法案の閣議決定を3月に先送りする方針を固めた。厚労省も裁量労働制の施行時期を1年遅らせて2020年度に変え、周囲の理解を得るための時間稼ぎをするらしい。

それでも朝日社説は「典型的な問題のすりかえであり、論外だ。問われているのは、大きな政策変更を拙速に進める政府の姿勢である」と訴える。

朝日新聞はもともと労組に関係する読者が多い新聞である。それゆえ今回の安倍政権の働き方改革には、徹底して異を唱えたいのだろう。

23日の社説の最後はこう結んでいる。

「裁量労働をめぐっては、対象外の人に適用して残業代を支払わない例など、今もさまざまな問題が指摘されている。現状に向き合うことが出発点だ。なし崩しの拡大は許されない」

沙鴎一歩も働き過ぎを助長するような「なし崩し」には反対である。国会で十分、議論をしてほしい。

原因究明と再発防止を求める読売社説

「多様な雇用形態を確保し、社会の活力を維持するための重要な法案である。正確かつ客観的な情報に基づく冷静な国会論議が欠かせない」

2月22日の読売社説は働き方改革関連法案自体を前向きに捉え、冷静な議論を求める。

読売社説は「政府はこれに基づき、1日の平均的な労働時間が、裁量労働制は9時間16分で、一般労働者より約20分短いと説明していた。だが、一般労働者には、1か月間で最長の残業時間を尋ねており、比較することに無理があった」と解説する。

そのうえで読売社説はこう指摘していく。

「厚労省は、調査担当者とは別の職員がデータ比較を行ったことが原因だと釈明する。塩崎恭久前厚労相が国会で引用したこともある。省内のチェック体制が機能せず、あまりにずさんな対応だ」
「徹底した原因究明と再発防止に努めなければならない」

厚労省の杜撰ぶりを糾弾し、再発の防止を訴えるところは、冷静な社説である。読売社説を見直した。