2009年9月12日(土)

なぜ仕事の早い人は酒や煙草にはまるのか

注目理論が斬る「職場のナゾ、お金の不思議」:時間割引率

PRESIDENT 2009年10月5日号

著者
依田 高典 いだ・たかのり
京都大学大学院経済学研究科教授

1965年生まれ。京都大学経済学部卒、同大学院経済学研究科修了。同大学院経済学研究科助教授などを経て、2007年から現職。著書に『行動健康経済学』(共著)など。

京都大学大学院経済学研究科教授 依田高典 構成=山下 諭 撮影=川島英嗣
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今日の100円か、1年後の150円か

今日100円を受け取るか、1年後に同じ100円を受け取るかと言われれば、誰でも今日受け取ったほうがいいと言うだろう。しかし、現在の100円と1年後の110円とどちらがいいかと言われたらどうするか。さらに、1年後の金額を130円にしたらどうだろう……。

こんなふうに受け取れる金額を少しずつ増やし、いくらまで上げれば1年待てるかを調査する。例えば、今日の100円と1年後の150円が満足できる等価だったとしよう。この比率が「時間割引率」になる。

時間割引率とは、将来を「割り引く」割合のことだ。現在の利得と将来の利得の交換比率を表すが、その比率は利子率で測るので先の例でいえば今日の100円と1年後の150円が等価だったとすれば、割引率は50%となる。

冷静に考えれば、100円より150円のほうが、価値が高い。それならば今日我慢して、1年後に150円を受け取ったほうがいいと思うはずだ。しかし、人間は誰しも、将来の利益より、目先の利益を優先する傾向を持っている。時間割引率はそんな人間の「せっかち度」を測るモノサシでもある。

人間なら、誰しもある程度はせっかちな性癖を持っているものだ。そもそも人類に農耕という、長期的な利益を待つシステムが確立される以前の社会では、将来のことなどより、目の前のチャンスを逃さない人のほうが生き残る確率が高かった。人間がせっかちなのはこの頃の名残であると考えられる。人間だけではなく、ハトやネズミのような動物も同じような性向を持つ。

ただし、せっかちの度合いには明らかに個人差がある。せっかち度、すなわち時間割引率が高い人ほど、近視眼的な行動に走りやすい。

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