新しいアウトプットを得るには新しいインプットが必要

AIを活用するうえで、ユースケースの次に立ちはだかるのは「データの壁」である。企業が持つデータには「あるもの」と「ないもの」がある。新しいアウトプットを得るためには、新しいインプットが必要だ。具体的には、これまで紙やPDFでしか保存してこなかった顧客情報とつなげて分析してみたらどうか。明確なユースケースに基づき、現在データとして蓄積していないものを選んで取り込まないと、意味のある分析は得られない。

日本において特に、経営がデジタルを使いこなす必要があると考えられる大きな理由の1つに少子高齢化がある。例えば企業のコールセンター業務をイメージしてみてほしい。顧客にシニア層が増えるほど丁寧な対応が求められるようになる一方で、それを受ける労働力は不足し、人手不足が深刻になっていく。この場合、AIを積極的に活用することが、サービスの質を落とさずにコストを下げる有効な手段になるだろう。

コールセンターは顧客との重要な接点でもある。そこに寄せられる情報は、企業にとっての「隠れた宝」だ。たとえばコールセンターに寄せられた声を、内容に応じて営業に回すことができれば、業務を効率化できるばかりではなく、商品・サービスの付加価値を向上させることにもつながる。

ところが現状では、コールセンターが受けた顧客の声を営業へと回すことは、必ずしも業績評価につながらず、営業に回すべき情報を抱え込んだままになりがちだ。人手が足りなくて、十分に対応しきれないという職場も多いだろう。

ここにAIを導入し、必要な情報を全社的に共有できるよう、システムを構築し、コールセンター業務を起点にビジネスモデルを組み直していく。そうしたビジネスモデルの改革を伴う決断は、経営層にしかできない。

デジタルでできること(手段)がたくさんあるということは、それを選び取るための目的と確かな目が必要になるということだ。必要なのは事業の本質を見つめること。経営者が何を実現したいのかというビジョンが問われるし、それをサポートする経営企画室には、経営者のビジョンを具体的な技術と結びつけながらビジネスモデルとして構築していく力が求められている。

高部 陽平(たかべ・ようへい)
ボストン コンサルティング グループ(BCG) パートナー&マネージング・ディレクター
BCGジャパンのデジタル&アナリティクスリーダー。BCG金融グループ、保険グループのコアメンバー。デジタル・IT分野に豊富な経験を有し、保険、金融を含むさまざまな業界の企業に対しテクノロジーを活用した競争優位構築を主軸とするプロジェクトを手掛けている。【デジタルBCG紹介ページはこちら
(写真=iStock.com)
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