仕事を奪われることを恐れず「創り出す」

重要なのは、顧客中心の発想でビジネスモデルを根本から見直すことだ。そのために必要なデータを積極的に収集・分析し、活用する。そうすれば新規のプレイヤーに既存のビジネスモデルを破壊される脅威から身を守ることができるばかりか、今ある業績を大きく伸ばすことができる。

巨大組織がベンチャー企業と同様のサービスを実現しようとすれば、随所で「縦割り」の壁にもぶつかるだろう。組織の構成員は、自分たちの仕事が奪われることに対して不安を抱くものであり、その不安が大きいと、共有すべきデータも部門ごとに抱え込んでしまい、全社的に非効率な状態が続いていく。

やや軽薄に聞こえるかもしれないが、このような不安を取り除いて前に進むには「おもしろいからやってみよう」を掲げることだ。仕事を奪われるのではなく、みなでおもしろい仕事を創りにいく。

新しいビジネスモデルに挑戦することを、社員に「おもしろい」と感じてもらうためには、その企業が持っている理念や価値観に沿うことも重要だ。企業経営に関しては、より本質的な哲学が問われる時代にもなってきている。

実際、どのように変革していくのかはあくまでケース・バイ・ケースだが、「おもしろい」が見えたら、まずは短期間のうちに小さく導入してみるのは1つの手だ。想定していた成果が出たら、それを土台にしてプロジェクトを拡大していく。「アジャイル」と呼ばれる働き方だ。ここで重要なのは、役員クラスの人間がリーダーとして関与していること。部門長レベルだと、どうしても部門内の利益にとらわれてしまい、全体最適へと向かいにくい。

トップが号令をかけ、各部門に下ろして検討させるという方法もあるが、これは意外にもたつきがちだ。組織の縦割りが強いと、細分化された部門の数だけフィードバックが返ってきて、個々の提案が小粒になってしまう。その場合、上がってきた意見を経営企画室などの組織がいったん集約してからトップに上げ、そこから本来の意味での検討を始めることになり、かえって時間がかかってしまう。

従来の業態に固執することが最もリスクが高い

今の時代、大企業にとって最もリスクが高いのは「うちの会社は○○業だから」と従来の事業・業種・業態に固執することだ。ある事業や業態の効率化に成功した場合、そこにプラスアルファでシナジーのある事業や業態へと出て行く。あるいは、別の顧客接点を基に新規事業を開拓していく。そうした柔軟性が求められている。

先に触れたデジタルの本質を理解しながらデータの分析・活用へとかじを切って進むことができる企業と、そうではない企業との間には、近い将来、大きな差がつくのは明白だ。2018年はその分水嶺になるだろう。

そういう意味で、最近、金融機関のトップが「われわれはテクノロジーカンパニーです」と言い始めていることは注目に値する。顧客との接点を基準に、本業をよりシンプルに眺めていけば、金融機関はたしかに一種のテクノロジーカンパニーだと言える。デジタルの進化がわれわれ人間に要求しているのはまさしく、そのような根本的発想の転換だ。

高部 陽平(たかべ・ようへい)
ボストン コンサルティング グループ(BCG) パートナー&マネージング・ディレクター
BCGジャパンのデジタル&アナリティクスリーダー。BCG金融グループ、保険グループのコアメンバー。デジタル・IT分野に豊富な経験を有し、保険、金融を含むさまざまな業界の企業に対しテクノロジーを活用した競争優位構築を主軸とするプロジェクトを手掛けている。【デジタルBCG紹介ページはこちら
(写真=iStock.com)
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