「世界の都市総合力ランキング(GPCI)」で2年連続3位の東京が、やがて迎えるポスト2020年。目指すべき方向性について、同ランキングの作成メンバーでもある明治大学の市川宏雄教授が提言する。

トップのロンドンと東京の違いはどこにあるか

──昨年10月に発表された「世界の都市総合力ランキング(GPCI)」の結果についてどう分析されますか。

【市川】2008年のGPCI発表開始から15年まで4位だった東京ですが、16年に続き17年も3位になりました。GPCIでは「経済」「研究・開発」「文化・交流」「居住」「環境」「交通・アクセス」の6分野で都市を分析・評価し、全分野の合計スコアで“都市総合力”を順位づけています。

東京が1位のロンドン、2位のニューヨークに比べてやや弱かった「文化・交流」は、オリンピック・パラリンピック開催が決まった13年から着実に向上基調。もう一つ、「交通・アクセス」も10年に羽田空港へ国際線が戻って以来改善の傾向にあり、総合的に見て東京は一段とバランスの取れた都市になってきています。ただトップ2都市と比較して、まだまだ改善の余地があるのも事実です。

6分野のうち、東京は「文化・交流」で4位、「交通・アクセス」で6位。これらは前回より順位を上げている。ただし、上位のロンドン、ニューヨークは、いずれもさらに上の順位であり、さらなる改善が求められる。

──今後、東京の順位はどう動いていくと予測されますか。

【市川】私自身は、ニューヨークを抜いて2位になることも可能だと考えています。今の東京の勢いの背景にはオリンピック・パラリンピック効果もあるでしょう。でも12年に開催したロンドンは、その後もおおむねスコアを伸ばしている。東京が目指すべきなのは、「文化・交流」「交通・アクセス」のさらなる強化だと考えます。実は先の6分野のスコアを比較すると、「文化・交流」「交通・アクセス」を除いて東京とロンドンはかなり近い。ロンドンと同じ成長カーブを目指すことにより、東京の2位浮上は数年以内にも現実味を帯びてきます。

市川宏雄(いちかわ・ひろお)
明治大学公共政策大学院
ガバナンス研究科長 専任教授
森記念財団 理事

1947年生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院博士課程を経てカナダ政府留学生としてウォータールー大学大学院博士。専門は都市政策・都市計画、次世代構想など。

「もっと日本に投資したい」と外国人は思っている

──今後、具体的にどのような施策が必要でしょうか。

【市川】「文化・交流」というのは、集客施設や外国人受け入れ実績などから構成される分野。現在、インバウンドは想定以上に増えていますが、端的にいって、旅行客が東京や近郊でお金を使ってくれる仕掛けを練るべきでしょう。それに海外から訪れる人は、旅行客だけに限りません。東京に住む外国人を増やす努力も必要です。東京は、生活環境のベースに対する外国人からの評価は非常に高いのです。あとは、外国語表示やインターナショナルスクールを増やすなど、きめ細かい取り組みが必要になってきます。

「交通・アクセス」の改善策は、やはり国際線の増便がポイントです。今、羽田空港の機能強化が計画されていますが、世界の大都市で東京ほど中心部に近い空港を持つ例はほとんどない。羽田発着の国際線増便が東京の都市総合力を支えることは間違いありません。環境影響などに配慮しながら、将来的にロンドン、ニューヨーク並みの便数を確保できるよう、期限を区切った目標設定も必要だと思います。

──東京がさらに競争力を高めるために何が求められるか。最後にあらためて聞かせてください。

【市川】最大の鍵は、海外からいかに人を呼び込めるか。国内の人口が減少する中、一言でいえばこれに尽きます。それをスムーズに実現するためにも、玄関口である空港がボトルネックになるようなことがあってはいけません。

さらにポスト2020年を展望した規制緩和が重要です。特にビジネスの面では、海外からの投資に対するバリアを壊していくことが求められます。実際、多くの外国人企業家と話をすると「できればもっと日本に直接投資をしたい」と言いますし、東京に訪れたことがある人の多くは、その都市運営のレベルの高さに驚いている。そのポテンシャルを生かすために従来の規制や固定観念を打ち破れるかどうか。将来を考えると、この1、2年の動きはとても大事になると思います。

一方、ロンドンやニューヨークに見られない、中心部で進む都市再開発は東京の強みです。この背景の一つには、まさに規制緩和があり、規制を緩めれば民間が力を発揮し、成果が上がることを示したいい事例でしょう。むろん知恵と工夫も欠かせず、ビジネスセンスが求められますが、東京の競争力向上はまだ十分に可能です。東京の都市力が上がれば、それをうまく使って地方を繁栄させる方法も検討できる。ぜひ皆さんにも、ポスト2020年の東京の姿をイメージする機会を持ってほしいと思います。

飛行経路の見直しなどで羽田空港の国際線増便を

羽田空港では2020年までに国際便を増やすため、機能強化への取り組みが進行中だ。これによって単なる利便性の向上にとどまらない、さまざまなメリットが考えられる。

1 ビジネスしやすい環境を整え、首都圏の国際競争力を強化
2 羽田空港の豊富な国内線と国際線を結び、地方を元気に
3 より多くの外国人観光客をお迎えして、国内の消費を活性化
4 国際的なスポーツイベントや文化インベントの円滑な開催

東京湾上空では航空機が大変混雑しており、仮に羽田空港に新しい滑走路をつくっても発着回数はほとんど増やせない。そこで滑走路の使い方を見直し、それに合った飛行経路を設定しようと考えられている。例えば上図のように南風の時なら、国際線が集中する15時~19時のうち実質3時間程度に限って都心の上空を到着経路に使用する。こうした取り組みなどによって、1日あたり約50便も増便できると試算されているのだ。

羽田空港の機能を強化し、国際線を増便することで、年間約6500億円の経済波及効果、約5万人の雇用増加などが期待されている。飛行経路の見直しにあたっては、騒音に配慮して、飛行高度の引き上げの検討や、より静かな航空機使用を促す着陸料体系の導入なども行われている。

また、国土交通省は安全対策の一環として落下物対策も進めている。現在、落下物を未然に防止するために遵守すべき「落下物防止対策基準」の策定を検討中で、これは世界的に類を見ない取り組みだ。さらに海外も含めた航空会社に対し、整備・点検を徹底するよう繰り返し指導し、駐機中の機体チェックの強化なども徹底。万が一落下物が発生したときの対応として、航空会社に対する処分や見舞金制度の創設なども検討されている。