相手にも自分にも負担をかけない“30秒相談”

上司に相談ごとがあるとき、「すみません。今ヒマですか?」と聞くのは言語道断です。だからといって、「すみません、今ちょっと時間ありますか?」と言うのも適切ではありません。相談される側は、時間のあるなしで相談を受けるかどうかを決めるのではなく、往々にして「相談内容が何か」で決めるもの。なぜなら、「面倒なことに巻き込まれたくない」「面倒なことで時間を取られたくない」というのが本音だからです。

ビジネスの世界においては、「時は金なり」が常識。他人の時間をムダに奪うことは罪であるという認識を持たなくてはなりません。

ですので、相談事は簡潔にすべき。「ちょっとご相談があるのですが」ではなく、「今30秒だけお時間いただけますか」と言いましょう。ただ単に「相談」と言うと、プライベートなことからビジネスの入り組んだ話まで、何が来るかと相手は身構えてしまいます。ですが、「30秒だけ」と言えば、内容はさておき30秒=短時間で解決するシンプルなことだと感じます。つまり、相談されるほうの負担が軽減されるのです。

私の感覚では、10年くらい前には「5分だけ」と言えば短時間というニュアンスだったのですが、その時間感覚が年々短くなっているような気がしています。5分、3分、1分、30秒と、「ちょっとだけ」と感じる時間が短くなっているのです。

30秒で実のあるコミュニケーションをするには、10秒で状況説明をし、10秒で質問をして、10秒で返答をもらう、というくらいでしょう。そんなに短い時間ではムリだと思うかもしれませんが、本当に必要なことだけをやりとりするには十分な時間です。

私自身も、大学で他の教授に確認や相談をすることがあります。互いに時間がなく、移動の合間に廊下ですれ違うときくらいしか会えない場合は、この「30秒相談」をします。

「○○先生、今30秒だけいいですか」
「あ、いいですよ」
「先日の△△の議案について、□□先生にご協力いただきたいのですが、話を通していただけますか?」
「いいですよ。あとで私から□□先生に一報入れておきますので、明日くらいに連絡してみてください」

こちらから「30秒」と言っているので、相手も、挨拶なしに用件だけを簡潔にやりとりしようという心構えをもってくれます。

「用件だけのやりとりでは心が通わない」と考えるのは、早計にすぎません。相手の時間を大切にしつつ、自分の時間も大切にする。かつ必要なやりとりを過不足なく済ませることができる。「30秒相談」は、互いの状況を理解しあっているからこそ成立するものなのです。

どんな頼み方をするか。どんな相談の仕方をするか。これらも、その場面に適した語彙力によるところが大きいのです。

齋藤孝(さいとう・たかし)
1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書に『三色ボールペン活用術』『語彙力こそが教養である』(以上、KADOKAWA)、『声に出して読みたい日本語』(草思社)など多数。NHK Eテレ『にほんごであそぼ』総合指導。
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