「過信」も振り回される要因のひとつ。高学歴で、有名企業に勤めていて、コツコツ真面目にやってきたような人は要注意だ。エリートコースを歩んできた人ほど、職場で思うように出世できなかったり、上司から評価されなかったりすると、「自分は優秀なのに」という過信から、振り回される人間になっていく。
「自分を過大評価している人ほど、欲求不満とそれに伴う怒りを持ちやすいもの。根底には、なんらかの劣等感を抱いていて、自己評価が低い部分がある。一流企業に勤め、それなりに出世しているけれど、自分よりもさらに出世している同期に劣等感を抱いている場合などがあてはまります。このタイプは、『自分は上司にもっと評価されて、出世すべき』という承認欲求を抱くようになる。すると、こうすれば認められるはず、褒められるはず、と上司の意向を忖度し始め、やがては上司にうまく操られ、振り回されていくのです」

この言葉を聞いた人は、「そんな『自分は優秀』と思ったり、人を妬んだりはしないよ」と思われるかもしれません。友人もそのようなことを考えているようにはみえません。しかし、片田先生によると、「私は、『人よりも謙虚であることができる人間』である」という過信や、「『いい人』と思われたい」という欲が、振り回す人から狙われるとのこと。そう言われてみると、自分の心の奥底にも「いい人、気の利く人と思われたい」という欲を感じます。その欲から人の頼みを気安く引き受けたりして、ドツボにはまることもあり、この「過信」の根深さを思い知らされます。

では、振り回される人は、状況改善を行わないとどうなってしまうのでしょうか。また、どのようにして状況改善を行えばいいのでしょうか。片田先生は続けます。

振り回され続けた結果、最悪の場合は心身に不調をきたしてしまうこともある。会社に行こうとすると吐き気がしたり、動悸がしたりするのは、不調のサインだ。また、自信喪失により相手の言いなりになって、支配される構造から抜け出せないという悪循環に陥る可能性もある。
このような事態を防ぐために、まずは、振り回されていると少しでも感じた場合、いったん、自分の状況を客観的に見つめてみてほしい。そうすれば正常な判断ができるようになる。「そもそも、この上司の言っていることが間違っているのではないか」「他にも方法がある」など、別の道が見えてくるかもしれない。
また、勝手に自分が下手に出ているという可能性もある。「いい人と思われたい」という承認欲求が過剰になってしまうと、それを利用されて蟻地獄のように振り回す・振り回される関係にはまっていくのだ。
「『ちょっと面倒くさい人』と思われることも対策の1つです。人を振り回す人というのは、『この人は何をしても言い返さないから大丈夫』というのを鋭く嗅ぎ分けています。自分の身を守るために、あえて面倒くさい人になることも重要です」

「ちょっと面倒くさい人」になるというのは、謙虚な人、気が利く人にとっては非常に難しく、アイデンティティを揺るがすほどの苦痛ともいえることでしょう。それでも相手を見て、ときには「ちょっと面倒くさい人」にならないと、会社で、ひいては社会では、生き抜けないのです。