どんな社長が、社員に愛されるのか

後継者は、社員と一対一で話す時間を定期的に確保することが必要だ。人は、相手がどういう人物であるかがわからないと信用できない。信用を作りあげるために必要なのは、相手の話を聞くということだ。

コミュニケーションが大事なことは、誰しも理解している。しかしコミュニケーションの機会を確保している企業は、実感としてかなり少ない。あっても飲み会あるいは社員旅行といったイベントだけだ。

一対一の面談を重視するのは、社員に「社長は話を聞いてくれる」と感じてもらえるからだ。人は、誰かに関心をもたれると自分も愛着を持ちやすい。社長が話を聞いてくれると感じれば、社長を相手に労働トラブルを起こそうという気にならない。社長と社員の距離感が近いことこそ、労働問題の抑止力になる。

後継者は耐え、先代も耐えるしかない

最後にもう一つ。仮に、後継者がどれほど努力しても、古参社員が後継者に反して会社に損害を与えたとする。このときには後継者が然るべき処分を「自ら」下さなければならない。組織を強くするためには、信賞必罰の姿勢が不可欠だ。後継者は処分を下すことに消極的だが、それではいつまでたっても「先代のお子さん」のままだ。

中小企業の事業承継に、正しいやり方などない。ある社長は、あえて赤字部門の責任者に後継者をおき、黒字化させることを命じた。その後継者はトイレ掃除から初めて、少しずつ社員の評価を得てきた――。

事業承継は、中小企業にとって最大の危機であり、飛躍のチャンスでもある。後継者は泥だらけになっては、歯を食いしばって立ち上がり続けるしかない。先代は、不安を感じつつも、一歩後ろから眺めているほかない。親子の承継に言葉はいらない。