中国は、アメリカのような華やかな安全保障同盟のネットワークを持っていない。旧ソ連諸国と密接な結びつきを持つロシアと比しても、中国が持つ国際的な安全保障網の欠落は、特徴的である。だが自国だけで14億の人口を擁する中国が、アメリカとは異なる安全保障秩序を構想するとしても、それは自然である。

米中ロ3大国の地政学的な構図

古典的な地政学では、「大陸国家(land power)」と「海洋国家(sea power)」の分類を、基本的な概念構成に使う。ユーラシア大陸の深奥に位置するロシア(+中央アジア)は、「回転軸(pivot)」と描写される「大陸国家」の雄である。太平洋と大西洋の接合地点に浮かぶ巨大な島国であるアメリカ合衆国は、「海洋国家」の雄である。中国は、ドイツなどと並んで、水陸「両生類(amphibia)」と描写される。

大陸中央部の自国の影響圏の維持に躍起になるロシアと、海洋世界ではいまだに圧倒的な影響力を誇るアメリカをにらみながら、中国は「一帯一路」で、両者の中間領域に自国の影響圏を確立しようとしている。地政学理論にしたがえば、そのような分析になる。

中国の影響圏の帰趨(きすう)を握るのは、地政学理論で「橋頭堡(bridge)」と呼ばれる半島地帯である。具体的には、まずインドであり、あるいは朝鮮半島であり、さらにはインドシナ半島などが、激しい地政学的確執の対象となる。上海協力機構に加盟しながら、「一帯一路」への反対を表明し、日本やアメリカとの関係も深めているインドの立ち位置は、そのような意味において非常に複雑である。同じ事情は、韓国にもあてはまる。東南アジア諸国は、国ごとに親米派・親中派に分かれる傾向にある。

このような地政学ゲームが進展していく傾向は、今後もしばらく続くだろう。トランプ政権下のアメリカは、かつてのように普遍主義の言葉を並べながら、実態としては自国の影響圏を広げる制度を構築していく、というやり方を、とらなくなった。普遍主義の装いを捨ててでも、地政学ゲームを通じて自国の国力を高める政策をとろうとしている。その背景に、もう一つの超大国としての中国の存在があることは、言うまでもない。