本来、漢方薬はスープにしても飲むもの

スープだけではないでしょうが、食事を通して健康を維持するということに非常に長けているのが香港の生活の知恵。日本は長寿大国などと言われ、2017年発表の厚生労働省資料(簡易生命表)によると、女性の平均寿命は87.14歳、続くスペインの85.42歳、フランスの85.40歳、85.20歳の韓国と大きく引き離した印象がありますが、その日本が世界的に2位の地位に甘んじているのは、常に1位に香港があるためです。

香港の人々を見習って、スープを意識する食生活を考えてみるのも悪くはないかもしれません。スープは中国語では湯(タン)と書きます。白湯(パイタン)、酸辣湯(サンラータン)などの名称は日本人にも馴染みの深いところではないでしょうか。なるほど、しまいに湯が付くとスープになる、ということで、湯のつく言葉を探してみると、食事のメニュー以外に湯がやたらと使われるものを見つけました。葛根湯(カッコントウ)、人参湯(ニンジントウ)、十味破毒湯(ジュウミハイドクトウ)、桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)などなど。そう、漢方薬の名前です。

何事も日に日に便利になる現代、みなさまが漢方薬と聞いてイメージされるのは、顆粒状のお薬かもしれませんが、今でも伝統的な漢方薬局で漢方薬を処方していただくと、さまざまな乾物をブレンドしたものが出てきます。本来、漢方薬は素材をよく煎じ、得られたスープを飲むというものでした。

早食いのみなさまに、スープをおすすめ

「薬といえば漢方薬」だった江戸時代、出汁を使った和食文化が大いに発達したのもこのころですが、スープに親しむ生活は現代人より江戸っ子のほうが豊かだったかもしれません。文献によると、江戸っ子は二日酔い対策には小豆の煮汁を飲んでいたようです。その効能がいかほどかは別としても、ビタミンBが豊富な小豆ですが、水溶性のビタミンBは茹でるとその大分が流れ出てしまいます。知らずにしていたこととはいえ、なかなか理にかなった食養生です。

出汁にしかり、漢方薬にしかり、煎じ、煮詰めることによって、素材の成分が滲み出てスープとなります。消化の負担をかけずに自然の恵みをいただく。ゆえにスープは薬膳の基本のキ。忙しくて早食いの癖がついてしまった、と感じている経営者のみなさま、よく噛まずにお腹に詰め込んでしまうくらいなら、具沢山のスープを取り入れてみるのも手軽な健康法ではないでしょうか。

「スープは腹にもたまるしな。薬も一緒に飲んでしまえば一挙両得、時間の節約にもなるし、なるほど得策だ」と冒頭の社長さん。お医者さまもおっしゃる通り、薬は水かぬるま湯で飲んでください。