現状打開のためのいくつかの処方箋

このような現状から抜け出すための処方箋のいくつかを示しておく。

▼原価と費用と損失の関係を分析し、全社のキャッシュアウトフローを総合管理する。これによって、原価低減活動が、費用や損失の増大に結びついているかどうかを確認することができる。具体的には、粗利益(貢献利益)や売上総利益レベルでの事業・製品の収益貢献度を測定する計算と決別し、事業・製品別に把握できる販売費・一般管理費を考慮に入れて、営業利益レベルで事業・製品の収益貢献度を測定する。これを実施することで、原価低減努力が販売費・一般管理費等の費用の増加につながっていないかどうかが評価できるようになる。

計算ひな形は、表のようになるだろう。

前期と今期を比べると売上高は同じ。一方でYYY<PPPとなっているのにZZZ>RRRとなっていれば、原価低減の効果はあったが、販売の段階で何らかのコストの増加があり、営業利益が減ったことがわかる。

▼現場での小集団活動を通じて得られる成果(例えば、創意工夫により5人で担当していた工程を2人で担当できるようになったため、人件費が節約できる)の大部分は、企業収益には貢献しない。なぜなら、この工程から人が3名減っても、この3名は当面解雇されないからである。「見かけ上のコスト低減」のために知恵と時間を使うことに大きな意義は見いだせないだけでなく、自分たちのアイデアや提案によって、将来、同僚や自分自身の職が奪われることになるかもしれないのだ。小集団活動を決して否定しないが、省人化につながるような提案を「封じ手」にするくらいの配慮が、企業には要請される。
▼現状のビジネスシステムでは部品メーカーなどサプライヤー努力による原価低減分は、ほぼメーカーに帰属しており、サプライヤーの原価低減努力は報われない。「原価企画」と呼ばれる製品企画・開発・設計段階からの原価低減活動がある。原価企画に関しては、20年以上前に書かれた本(加登豊『原価企画:戦略的コストマネジメント』日本経済新聞社、1993年)で、「サプライヤーの疲弊」が必然的に生じることが述べられている。

原価企画を支えている複社発注方式、メーカーの製品開発初期段階からサプライヤーの優秀なエンジニアを参画させるゲストエンジニア制度、メーカーからサプライヤーへの定期的原価低減要請、ランクオーダー制度(サプライヤーの格付け制度)、協力会の運営方法、工場訪問を通じてのサプライヤーの指導、サプライヤーの原価低減能力を把握することを目的とする原価見積書、特別採用などを抜本から見直す必要がある。ここで注意すべきことは、上記の仕組みは、サプライヤーの競争力を強化する方策として、かつては大きな成果をあげてきた点である。

しかし、現在では、そのいずれもが、サプライヤーに原価低減を促す仕組みに変容しているのである。一挙に、ビジネスシステムの変革を行うことはできないだろう。メーカーは、仕入価格の引き下げや原価低減要請額を現在よりも少なくし、サプライヤーに自助努力で達成した原価低減の成果を帰属させ、共存共栄が実現できる修正が必要である。