販売価格の引き下げが原価低減努力を相殺

さて、原価低減活動が、自社の収益性改善につながるなら、担当部門のモチベーションは高まるだろう。ポルシェやダイソンやキーエンスのような企業では、原価低減に成功しても販売価格は下がらないから、原価低減分がそのまま利益貢献につながるのである。つまり

売上総利益=売上-売上原価(販売された製品の製造にかかった金額)

となる。原価を下げれば、売上総利益は増加するはずである。

しかし、現実には、製造原価が下がると、製品1つあたりの販売価格が低下する。この場合、製造原価の低減に成功しても、工場の業績評価指標として使われる売上総利益が、原価低減分向上するという保証はまったくないのである。売上は工場ではコントロールできないのである。原価低減効果が得られるという前提で、販売価格が引き下げられていくという状況では、原価低減活動に従事している人は達成感を得ることはできないのである。

事実、「やらされ感満載」の原価低減が大部分を占めている。具体的には、

・取引先から定期的な原価低減要請がなされる
・上記のような商慣行の影響で、原価低減が実現しないと取引継続は難しい、あるいは、取引が失われるかもしれないという思い込みがある
・四六時中原価低減活動に忙殺され、原価低減活動がマンネリ化している、だから、やる気が起こらない
・原価低減のためのシステマティックな取り組みができないため、小手先の原価低減活動に終始している
・原価低減を実現するための投資はほとんど認められない
・要求される仕様(高品質・多機能など)を取引先から要請されているが、それが販売価格に反映されることは稀であり、コスト増にならない高品質・多機能化に取り組まなければならない
・明らかに過剰品質になっている部分について、それを適正品質レベルに引き下げるという後向きのアプローチを通じて、原価低減を行わざるを得ない
・取扱品種数が細胞分裂のように増加し、それが原価上昇につながるが、それでも原価低減に取り組まなくてはならない

このリストから、本来なら、原価低減活動は創造的活動でなければならないが、そのような理想像から遠く離れたところに現実があることがわかるだろう。