小6から葛飾で、ギターの弾き語り

【田原】本には、小6からギターの弾き語りを始めたと書いてあった。

SHOWROOM社長 前田裕二氏

【前田】まさに。その方法がギターの弾き語りだったんです。親戚のおばさんの息子さんが僕にギターをくれました。それをきっかけに、練習して歌を歌えば堂々とお金をもらえるんじゃないかと思って、葛飾の路上に立ち始めました。でも、最初はまったく立ち止まってもらえなかった。完全に戦略ミスですね。

【田原】どんな戦略だったのですか。

【前田】僕がどれだけゆずの歌をうまく歌っても、ゆずよりうまく歌えない。それならオリジナル曲を歌ったほうがお金をもらえると思って、自分で作曲して歌いました。ところが、これが間違いでした。通行人が立ち止まるのは、自分が好きな曲や知っている曲が流れているとき。途中からそのことに気づいて、カバー曲に切り替えました。あと気づいたのは、お客さんはパフォーマンスに対してではなく、コミュニケーションで生まれるある種の「絆」にお金を払ってくれているということ。最初はそのことがわかっていなかった。

【田原】それは客商売の本質かもしれない。小学生でそこに気づくなんてすごいね。

【前田】たとえば、ある女性のお客さんから、松田聖子の「白いパラソル」をリクエストされました。僕は知らなかったから、「練習するから1週間後にまた来て」と言ったら、本当に来てくれた。そこから仲良くなって、最終的にはお客さんに手帳を開いてもらって「来週の何曜日、ここに来て」と僕の予定を書き込んでもらうまでになった。ファンになってくれた常連客から1万円をもらったこともあります。

【田原】弾き語りは学校に行きながらやったの?

【前田】はい。学校が終わって、通勤客が帰ってくる時間帯に合わせて3~4時間くらいやっていました。あとはスナックの前も多かったかな。酔っぱらっていい気分になった人がたくさんお金をくれるので。

【田原】将来、歌で食べていこうと思っていた?

【前田】いえ、弾き語りは中2でやめて、中3からとび職のバイトを始めました。僕は向いていたみたいで、親方から「中学を卒業したらうちの社員になれ」と誘われて、それで食べていこうかなと。生まれて初めての内定です(笑)。